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配偶者は汗を拭うような仕草をしてみせる。芝居じみていて、なんか苛ついた。自分では可愛いと思っているんだろうか。
俺が席に着くと、二人もそれに倣って俺の向かい側に座った。沙希はピーナッツバターをトーストにべったりと塗り付けている。高校生らしいなと思う。配偶者の手元には皿もコップも置かれていない。なにかつまみながら、弁当を作ったのかもしれない。配偶者は結婚する前からお菓子が好きだった。だからよく太った。彼女が設定した臨界点までいくと、いきなりダイエットに目覚めて、炭水化物を抜いたり、ダイエットドリンクを一食分置き換えたりと、長続きしないようなことばかり行っていた。
配偶者の顔を見たくない。視線は自然と、相手の手元に下がっていく。組んだ手の甲が筋張っている。記憶にある配偶者の手と少し違って見える。前はもう少し肉付きが良かった気がする。手をパーにするとえくぼができるほど、ふっくらしていた。
「ちょっと痩せた?」
顔を上げて、配偶者の顔を見た。いつもちらっと見るだけだから気が付かなかった。よく見ると、前に比べ頬がほっそりしている。皺が目だったのは痩せたせいかもしれない。比べた「前」が、いつなのかさえわからないが。
「やっとしゃべったと思ったら、タモリみたいなこと言って」
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