おんこち様《さま》

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その後しばらくして、三田くんが国語の教科書に「温故知新(おんこちしん)」という四文字熟語が載っていることを発見した。温故知新(おんこちしん)の意味が、古い物事から新しい道理を知るというようなことを知った。三人は集まって、あの日の出来事を何度も繰り返し語り合った。 「あのおっちゃんが言うてた『おんこち(さま)』の神様って、『おんこち(しん)』ってことちゃうか」 今でも、あの老人の話が本当だったのかどうかはわからない。近所の子どもたちを、からかっただけなのかもしれない。ただ大阪大空襲や当時のマンション建設ラッシュを奇跡的に逃れ、あの場所に古い赤い屋根の一軒家が残り続けていたという事実は変わらない。 今でもボクは街でポツンと佇む古い建物を見つけると、許されることなら中に入って『おんこち(さま)』の訪れた(あかし)を調べてみたくなる衝動に駆られてしまうのである。 image=511320714.jpg
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