おんこち様《さま》

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おんこち様《さま》

近代的な建物の中に、いかにも古い建物がポツンと建っていることがある。 大都会の真ん中で、ガラス張りの高層ビルの間にポツンと立つ古い家屋。マンションが立ち並ぶ国道沿いにポツンと佇む、人が住んでいるのかさえわからないような建屋。 何かの目的、例えば観光や遺産の目的で、意図的に保存されているわけではなく、なぜこの建物だけが残っているのか不思議になる建屋。周りの近代的な風景とは対照的に、ポツンと長い歴史を漂わせる古い建物を見かけることはありませんか。 横浜に暮らし始めて、もう20年くらいにはなるが、たまにそのようなポツンと静かに佇む違和感を感じさせる建物に出くわすことがある。そんな時、ボクは大阪で過ごした小学生の頃のある出来事を思い出す。 大阪の船場(せんば)。 大阪が商業として発展して来た頃から続くこの街で、ボクは小学生時代を過ごした。 小学校の二年生か三年生くらいだったと思うが、その日は同じマンションに住む三田くんと松村くんと放課後を過ごしていた。1970年代後半から80年代の船場(せんば)の街は、マンションが多く立ち並び始めていた頃だった。 その頃の遊びといえば、マンションとマンションの隙間、マンションと一軒家の間の細い路地を()(くぐ)っては、探検気分を味わうというものだった。時にはフェンスをよじ登り、壁と壁とのわずかな隙間を見つけては、まだ足を踏み入れたことのない場所に辿り着き、この路地があの道路に通じているのかという発見に興じていた。いわゆる冒険ごっこである。今から考えれば、随分と危険が潜んでいる。 その日、三田くんと松村くんと三人で半袖、半ズボンにサンダルといういつもの軽装で探検をしていた。周りの新しいマンションの中に、ポツンと残された古い赤い屋根の一軒家。三人にとって、この謎を解き明かすことが、今日のミッションだったのだ。
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