おばあちゃんと私

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 久子おばあちゃんは子宮にガンを患っていました。  普段はおうちで過ごしていますが、時々私のいる病棟に入院してきました。 抗ガン剤の治療をするためです。  ベットサイドで点滴の準備をする私に、おばあちゃんは気さくに声をかけてくれました。そしてご自身の様々な話を聞かせてくれます。嬉しそうに口にするのは、伴侶であるおじいちゃんのこと。おじいちゃんとの思い出話を、それはそれは楽しそうに話してくれるのです。 「私には子供はいなかったのだけれどね。代わりにおじいちゃんと色んな所へ旅行に行ったのよ。色んな物を食べたし、きれいな景色も見たの」  旅行先のバスの中でおじいちゃんがおばあちゃんに向けて恋の歌を歌ってくれたこと。(すすめられたカラオケで!でも恥ずかしがっていたそう)  一緒にキンメダイの煮付けを食べて、「生涯で一番おいしい!」と意見が一致したこと。  夕日が沈む海辺で肩を寄せ合ったこと(そしてそれがとても恥ずかしかったこと)。   「結婚してから毎日が特別。運命の人っているものよ。あなたも頑張りなさい」  言われて、私は小さく頷き「いればいいけれど……」と、半ばあきらめムードで呟きました。仲の良いおばあちゃん夫婦のようになれる自信はありません。  あはは、と大口で笑うおばあちゃんの張りのある声が病室に響きます。  けれどもその腕には、現在進行形で点滴の管が。  この点滴は副作用が強い薬が入っています。吐き気もあるだろうし、本当は相当辛いはず。けれども、おばあちゃんの笑顔からは、そんな様子は微塵も感じられません。  大変な治療の辛さは、おじいちゃんとの楽しい思い出が紛らわせてくれている。  なんだかそんな気がしました。    
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