おばあちゃんと私

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 久子おばあちゃんが最後に入院してきたのは、3月のはじめでした。  抗がん剤の治療の為ではありません。  がんが進行したおばあちゃんを穏やかに送り出すための入院です。 「やあね。余命一か月だって。こんなに元気なのにね」  久子おばあちゃんはベッドの上でカラカラ笑い、私に言いました。  おばあちゃんは会話こそしっかりしているものの、もはや自分の足で立つこともできません。鼻には胃液を排出するチューブが入り、食事代わりの点滴を一日中しています。  身体の中では確実にがんが進行している――。先生からの厳しい説明は久子おばあちゃん本人にも伝えられていました。 「……桜が見たいわ」  うまく言葉が続けられない私を気遣うよう、久子おばあちゃんが話を変えました。 「桜……ですか?」 「そう。うちの庭には、毎年満開に咲く桜の木があるの。桜、見たいわねえ」  穏やかに微笑む久子おばあちゃんでしたが、病院があるこの地域は雪国。  桜が咲くのは早くでも4月の中旬です。  余命一か月のおばあちゃんが庭の桜を見ることは難しいでしょう。 「おじいちゃんとお花見でもしたいわねえ」  ーーその日、私は仕事を終えてから必死に考えました。   残り僅かな時間 しかない久子おばあちゃんに、きれいな桜を見せる方法を。  
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