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スラム全体を蔽い尽くす橙色の業火は、風にあおられますます勢いを増している。
消火部隊はいまだ影すら現さない。
一帯はもともと非居住エリアで、人はいないことになっている。
この焼き討ち掃討作戦を主導しているのは、統一共同体初代元首アプソロンバサックヌーム社CEOトーマス・アプソロン。
実働しているのが彼の私設部隊であることを、地方公務員の消火部隊が知らないはずはない。
どこかで状況をモニタリングしているのかもしれない。いや、そうに違いない。
万が一、市街に飛び火でもしたら、アプソロンもただではすまなくなる。
大衆の非難という大火事を鎮火するのは、スラムを火炎放射器で焼き尽くすよりずっと骨が折れるはずだ。
焔に包まれたスラムを俯瞰する丘陵に、二つの人影が姿を現した。
一方は女性のようで、苦渋に満ちた表情で眼下をじっと見つめている。
もう一方は男性らしく、背中に荷物のようなものを背負っている。
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