時の差婚

タイムラグ

　きっとどちらも違う。あえて理由を探すなら、タイムマシンが使える時代になったからだと思った。電話が無かった頃、遠距離恋愛が成立する確率は今より少なかったはずだ。だがそれは当時の男女の仲が浅かったせいではなく、遠距離恋愛を成立させる道具が無かったせいだ。僕の生きてきた時代には、たまたま過去の告白をやり直す道具が誕生した。僕がタイムマシンを使う理由はそれだけだ。これが浮気だとして、仮に成功すればチサとの出会いは最初から無かったことになる。失敗すれば何も変わらないままだ。どちらにせよ彼女を傷付けることにはならない。

　目を一度強く閉じた。開けると、今度は両手で冊子を手に取った。
　１ページ目を開く。ポップに描かれたキャラクターが「変わらない過去なんてない！」と叫んでいる。ページをめくると、タイムマシン使用に際しての注意が小さな字で並べられていた。最初の数文を読むと、予約サイトで同意した内容だと判断できた。早い話が、この機械を使って生じた問題に対してどの機関も責任を負えないということだ。次のページは、「『タイムマシン』はＰＴＳＤの認知行動…」という冒頭だけを読んで諦めた。タイムマシン誕生の歴史らしい。ようやく次のページから使用手順が記されていた。前もって確認していたが、読みながら準備を進める。