第一章 くらやみのクロ

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第一章 くらやみのクロ

 ママにもらったぬいぐるみ、まんまるのお目めにまんまるの身体。まんまるの手には鍵を一個持っている。  ほんとうはテレビでやっていたあのキャラクターのが欲しかったんだけど、わたしのママはぶきっちょで、絵を書いてもペンギンがペリカン。  だからママが頑張って作ったぬいぐるみのクロは私の宝物、くらやみのクロ。  わたしは黒崎くるみ、好きな色は黒。大好きなものは暗黒物質!  家にはパパとママと「くろ」って犬がいる、年はわたしと同じ十歳。  わたしはいろんなものが見えない。目が見えないんじゃないよ。いまでもちょっとそうだけど、もっと子供の時はそうなんじゃないのかなと思っていた。  何も映らないテレビみたいな、真っ黒。ときどき「くるみ」って誰かを呼ぶ声がして、でもわたしは「くるみ」じゃなくってクロ―リア姫だからわかんなかった。  クロ―リア姫じゃなくってくるみだってことがわかってきてから、ちょっとずつ色んな物が見えてきたけど、やっぱり見えないものは見えない。  でもそれはくるみの目が悪いんじゃなくって、「かんかくかびん」で色んなものがたくさん見えてしまうから、見えすぎて集中できないから見えないみたいに思うんだってパパが言っていた。  なんで?って聞いたらくるみって「こうきのうじへい」なんだって。  パパはお医者さんなの、って言っても病院じゃなくって大きな新聞社の働く人が悩みを相談するお部屋で働いている。だからくるみみたいな「自閉症」についても色々くわしいの。  わたしはぬいぐるみのクロを抱きながら、台所に行って今日もパパのグラスを借りる。  パパのグラスは大きくって小さな丸が沢山ついていて、スーパーカミオカンデみたい。これに水を入れる。 「スーパーカミオカンデ」 あぁ、本当にスーパーカミオカンデだったらいいのに。  ずうっと行きたいって言っているのに、パパが抽選に落ちたからダメだって……。  あぁ早く大人になりたい!そしたら大丈夫なんだってパパが言うの。仕方ないからパパのコップでこうやって、暗黒物質、このコップの中にもいるかな。  
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