0人が本棚に入れています
本棚に追加
―――ふと気付けば、辺りが暗くなっていた
恒星の影響で熱く焼けていた筈の赤い砂は、
静寂に包まれた暗闇の中では、まるで嘘のように色が無い
重力と色の無い、この世界に散りばめられた砂の中で、
モナの横顔は動かない
生物が存在しないこの惑星には、酸素も存在しない
磁場も衛星も存在しないこの惑星に、空気が留まることはない
気体分子の微かな振動で、モナの鼓動である筈の振動も伝わらない
そして、隣のモナは、二度と起動する事は無かった
「そ、そんな・・・ぼくのせいだ・・・この依頼は断るべきだった」
喜怒哀楽や色や音の識別は、
ぼくたちZにだけ存在するバグらしい
「モナ、ねぇモナ、」
音の無い世界で、
モナの抜け殻のようなロイドのカラダを抱きしめた
「ぼくは、守れなかった・・・モナを危険に晒すなんて」
僕たちには、記憶の代わりに半永久的にデータが残る
この後悔は永遠に正確に、保持され続けるのだろう
「キミはいつだって勇敢だよ」
こんなに苦しいバグなんて・・・いらないよ―――
「なんてぼくは、バカで臆病なんだ」
赤い可視光線が近づいてくる
起動停止したモナを
Eランクの救急ロイドが回収にやって来た
修理をするか、パーツの再利用だ
「・・・修復可能ですか?」
「安心してください」
感情の無いプログラミングされた笑顔に
僕の不安は深まる
「絶対に解体しないでください!」
「なぜですか」
「・・・なぜって、二度と会えなくなるからです」
「大丈夫ですよ、可能な限りアップグレードします」
「Z判定なんです」
「大丈夫ですよ、Z回路をショートさせますから」
「モナじゃあなくなる」
「モナは、個体識別コードに認識されていません」
「・・・わかりました、少し待ってください」
「はい、60秒でよろしいですか」
「・・・いいえ、3分です」
こうなる事は、分かっていたんだ
ぼくもモナも、Z判定ロイド個体は回収されれば
無数の集積回路が収められたマイクロプロセッサーを破壊される
だからモナは、コピーした一部のGRAND MOTHERを
ぼくに託したんだ
「今の僕にできる事・・・」
ぼくの不要データを消去して
モナのZ回路とデータの一部をコピーした
「モナ、ずっと一緒だよ」
最初のコメントを投稿しよう!