飛んで火に入る

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 電車を降り、改札を抜けると、すぐ目の前に商店街が広がっていた。ほんのり赤く弱弱しい夕明かりの中、町並みはかげりを帯びてぼうっと浮かび上がって見える。どんなに目を凝らしてみても、往来を歩く人群れの、一人ひとりの目鼻立ちや表情が、なんとなくあいまいである。高いビルや、まばゆいネオンもないこのひなびた駅前町に、僕は用があって出てきたのではない。しかし、家に居たからといってどちらにしても用事はないし、暇つぶしに出かけて電車に乗り、車両のがたごと揺れる音を聴いているうちに、なんだか気持ちよくなって少しばかり目を閉じたと思ったら、いつの間にか聞いたこともない名前の駅に電車が止まっていて、それより先には行かない様子であった。座席に座り込んでなんとなくぼんやりしていると、前の車両から車掌がやってきて、「終点だから、降りてください」という。追い出されるようなかたちでホームに降り立って、このまま下りの電車に乗って引き返すのも勿体ないから、改札を出て少しこのあたりを歩いてみようという気になった。改札のすぐそばに掲示してある、駅の周辺を案内する地図を見ると、近くに公園化した湖があるようである。不意に僕はそこで何か怖いものに出会えるような気がして、その湖に向かってみることにした。
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