飛んで火に入る

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 夏だから、日が暮れきらない今でも、すでに七時を回っている。仕事上がりのサラリーマン、学校帰りの学生たち、夕涼みに来た親子連れなどの人影が、商店街の通りを行ったり来たりしている。人出の割に通りの様子が落ち着いているのと、夕暮れ時の弱弱しい光線のせいか、町全体がうつろに目に映る。ぼんやりとした明かりの中で、淡く浮かび上がる影絵を見ているようである。人の声もするにはするが、なんとなく間遠く聞こえてくる気がする。耳を澄ましてみるのだけれど、どうしてもはっきりとした言葉が聞き取れない。湖への道筋を辿りながら、僕は自分の周りになんだか薄い柔らかい膜が張っているような気がしだした。背後では、日が落ちていくのが少しずつ早まっているようである。目の前の景色は、だんだんと影に篭ってゆくように見える。
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