学園、屋上にて。

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 学園の生徒であれば等しく平等に与えられる2学年時の「実戦」課題。学園側から渡される資料に「生存率」の項目がある事が示す様に、此の課題に因って命を落とす生徒は決して少なくない。此の学園が「入学は容易いが卒業が困難」と言われている要因は、十中八九此処にある。つまり正確に語るのであれば困難なのは「卒業」其の物ではなく、「2年から3年への進級」だ。  単純な実力不足。己が力量を見誤った。慢心。原因はどうあれ、例年生徒の何人かは単純な事実として死んでいる。其れを情報として開示されているにも関わらず楽観視して課題を決めるのは、其れこそ死に行くに等しい。少なくとも命だけは保証された学園内の課題ではないのだ。此処で冒険に出るのは「勇気」ではなく「蛮勇」だろう。  即ちオレの出した結論は「確実に生還出来る世界を選ぶ。此れを臆病だと罵りたければ勝手に笑え」である。ついでに此れを臆病だと笑う様な人種は、縦しんば卒業出来たところで長生きは出来ないだろうから、「勇気」を示した課題先で早々に野垂れ死んでしまえば良い。  其の理論に基づき期日間際迄慎重に思考した結果、1つの世界が最有力候補として挙がっている。後は親友の課題に於ける考え及び希望と照らし合わせれば、オレ達の課題も決定である。  とは言え此の男が先述の様な「蛮勇」を犯すとは毛頭考えられず、実力及び適正がオレと似通っている事を思えば自然、課題の候補も似通ってくるだろうが。 「資料と照らし合わせて色々考えたんだけどさ。オレ、アンタは吐いた嘘が其の儘能力値になる世界なら、最強だと思うんすよねぇ」  褒められたものではない性格を内に秘めながら、教師陣には「優等生」で通っている。絡んできた生徒達には容赦無く絡み返し、時折陥れる様な事さえしてみせる。其の詐術は親友の贔屓目抜きにしても大したものであり、件の世界であれば持ち前の頭の良さも手伝って容易に頂点へと君臨出来るだろう。  上には上が居るという当然の聞き飽きた事実を踏まえたとて、課題中に死ぬ危険性は低い世界である事に違いない。無論今迄築き上げた「優秀な生徒」の座を維持したいという自尊心はあるが、オレにとっての最重要事項は「親友との生還」である。であれば、危険要素を出来る限り潰え、残った物を選ぶのが必然だろう。
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