猫の歎願

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 猫を一匹飼っている。飼っているというよりは、とある日道端で死に掛かっていたのを拾って介抱して以来、我が家に住み着くようになった。仰向けに転がして股の間を覗くと雄である。盛りがついて脱走を繰り返すので、最近去勢を施したばかりだが、ちっとも落ち着かない。玄関のかぎを開けておけば、前足で戸口を引っかいて隙間をつくり、するりと外へ出てしまう。そのまま何日も帰ってこないことがしばしばだ。獣医に払った手術費が惜しまれるようだが、先方も必ず猫が脱走しなくなると請合ったのではないから仕様がない。そういうわけで、我が家では猫の脱走を防ぐためだけに、常に家中の鍵を掛ける習慣がついてしまった。
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