猫の歎願

「いったい何のつもりだ」
　猫はまるでにたにたと笑うように、ますます口を横に広げた。そして、平べったいみゃあみゃあ声で鳴いたかと思ったら、人間の言葉を話すのである。猫は言った。
「あちこち方々歩き回ってようやく、お嫁さんになってくれる人を探し出しました。私たちは明日結婚するのです。ところが、こないだあなたが無理やりお医者に連れて行ったせいで、私は子供をつくることが出来ない体になってしまった。どうか、元の体に戻してください」
　私はそう言う猫の手元で鋭い爪がぎらりと光ったような気がした。腰を抜かしたまま、猫の背後を見やると、そこには着物姿の女がしゃなりとして立っているが、よく見るとその女も、着物の襟元から生えているのは真っ白な毛並みをした猫の頭だった。