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そうして気がつけば、目の前に死体があった──手には血まみれのナイフ。当然のごとく自分が殺したんだと妙に納得した。
「あ……そう、だ」
一つだけ、お前に感謝したい事がある。
病弱だった体質は、生死を彷徨った挙げ句にすっかり健康体へと変わっていた。しかし、片眼と声帯の損失を埋めるほどのものではない。
落ちた視力を補うためにノンフレームのメガネをかけ、諦めた心は楽天的な性格を生み出した。
「ククッ」
無邪気に笑うその目には、純粋ともとれる光りが宿る。
本当は解っていたのだ、この男がどうして自分を突き飛ばしたのか──事故は、付き合っていた女をフッたしばらくあとの事だった。
女はこいつに、俺のあること無いこと悪口を吹き込み、好意を寄せていたせいもあってすっかり信じ込んだのだ。
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