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殺せばそれでおしまい、こいつは楽になる。それがどうにも許せない。
一生ついてまわる傷のある紙切れを持って、生き続けてほしかったというのに──!
「……」
斉藤はしばらく考えて、パンツのバックポケットから小さなノートを取り出した。
一緒に付いているボールペンで何かを記すと、そのページを破り死体に投げて蝉の合唱を聴き入る。
山々に囲まれた自然豊かな土地に、自分はこんなにもそぐわない。木々の香りも土の香りも、いまの自分には嫌悪でしかなかった。
否、嫌悪しているのではない。嫌悪されているのだ。
事件など起きそうもない空間に、血なまぐさいものを残してすまないと口の中で発し、木々と空の境目にぼんやり視線を送ると一度、強く瞼を閉じて立ち去った。
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