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そのまま数時間が過ぎ、やがて夜が来たようだった。じかに目で見ずとも分かるのは、空気がひやりとした冷気を帯び始め、土の匂いも、木々の香りも心持ちその性質を変え始めるからだ。そして昼間に感じる明朗な静寂とはまるで打って変わった、黒くよどんだ静寂。東郷は、夜を迎えるとともに大木の意思にも変化が訪れてきたと感じ始めた。光を受けて得た養分を、夜になると内にこもらせて充実を増すのか、昼間よりもより実体を帯びて大木の存在を感じられるのである。東郷は漠然と、自分は今夜新たなる神秘に遭遇することを予感していた。なぜなら、大木の意思が東郷の意識に感応し始めたように感ぜられていたからである。
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