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何かが来る。そう思った。
その気配は大木の髄から突如として浮き上がったようであった。明らかに人にあらざるもののイメージが、脳裡を刺激する。東郷は閉じていたまぶたをゆっくりと開いた。
大木の根元に老人がひとり、たたずんでいた。見てくれはあまりに矮小で脆弱そのもので、節くれだった手や、骨ばった肩、頭髪のない頭は東郷の手のひらに収まりそうなほど小さい。しかし、落ち窪んだ眼窩の底には静まりつつも密かに猛る、自然の激しさの象徴のようなオーラがまちがいなく渦巻いていた。オーラは東郷をめがけてまっすぐ向けられていた。まるで大木の意思が東郷の呼びかけに感応し、実体化した姿であるかのようだった。東郷はこの神秘、あるいは怪奇との遭遇を幸運と思った。己の修行は、この未知なる体験によってさらに大成せねばならないのである。
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