古樹の翁

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 東郷は立ち上がって、無言のまま老人と向き合った。老人はあくまで気配を沈め、東郷の姿をじっと見据えて、この空間の激変する瞬間を待っているかのようだった。  どこからともなく風が吹き、木々のざわめきがそこかしこに波のように広がった。東郷は空気の流れが変わったと感じて、これから起こる何かを予感して密かに心を構えた。すると老人の姿が風になびくように横に流れて闇に消えた。  次の瞬間、何かを叩きつけるような激しい音が、再び沈みかけた夜のしじまを打ち破った。
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