1人が本棚に入れています
本棚に追加
痺れるような痛み。頭上の闇から姿を現した老人が、重力を伴って東郷の額をめがけて突進してくるのを、ただ腕で払いのけただけだったが、まるで筋骨隆々とした巨漢に思い切り棍棒で打ちつけられたかのように、耐え難い衝撃が体中を駆け巡った。たったの一撃で溜まらず膝をつき、東郷は老人の細身の体から繰り出される打撃のその威力に戦慄した。自分が少しでも気迫を欠いたところに、今の攻撃を喰らえば、おそらくひとたまりもないだろう。東郷は驚愕に震えながらも、この闇の中で出会った好敵手との静かなるたち合いを、にわかに歓喜した。ここまでの修練で身に染み込んでいた自然の厳然たる力強さが、老人の一撃には集約されているかのようだった。老人は再び闇の中に消えた。東郷は深く息を吸い、体中に精気が行き渡ったのを感じてから大きく吐いた。そして腕を大きく広げて構えを取り、周囲に鋭く感覚を走らせた。老人の気配が何処にあるか、それひとつに意識を集中させた。
最初のコメントを投稿しよう!