別れた人々の住処

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「君は今日、なんといって会社を休んだの?」 「朝食に卵を食べたらみるみる蕁麻疹が出て、とても人に見せられる顔じゃないから、休みますと言ったわ」  君の仕事はコールスタッフである。客に顔を見られることはない。しかし、僕は君が仮病を使って会社を休み、一緒にいてくれることに満足していたので、何も言わなかった。 「あなた、昨日は何をしていたの?」 「次に書く台本の構想を練っていた。未来の話なんだ」 「ふうん」  君が気のない返事をしたところに、店員が飲み物のカップを二つ、トレーにのせて運んできた。飲み物の名前を言いながら、店員がカップを、机を挟んで向かい合う僕らの間に置き、白い陶器のカップからは湯気が立ち上った。湯気には香りがあった。僕は言葉を止めて、店員の手元を見ていた。指が細く、白く、長かった。
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