第2章 スリーピングエッグ

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 だがそれは、『アンチ・エッグ』をカモフラージュするためかも知れない。  カレンは大きく肩を落とし、ソファーに頭を預けると溜息を吐いた。人を疑うことから始めるこの仕事が、ときどき嫌になってくる。夫妻は施設から、8歳の女の子を引き取っていた。これもカモフラージュだというのだろうか……。 「こんにちは、ミス・コール。サイコセラピストのメアリー・ゴールドウィンです」  静かな心地よい声で呼びかけられ、カレンは慌てて身体を起こした。目の前にはふっくらとした体格の女性が、シスターのような慈愛に満ちた微笑みを浮かべて立っている。その後ろに、不釣り合いなほど大きな車いすに腰掛けた少女。 「あ、ああ、初めまして。ニューヨーク市警のカレン・コールです。よく私だと解りましたね」  面会許可は電話で済ませたので、面識はないはずだった。 「まあ! だってここには、私たちの他にあなたしか女性はいらっしゃらないわ」  メアリーは鈴を転がすような笑い声を立てた。言われてみれば確かに、ラウンジにくつろぐまばらな人影は男性ばかりだ。  ふっと緊張が緩み、カレンもつい笑みがこぼれた。メアリーは、初対面でも警戒心を起こさせない不思議な魅力を持つ女性だった。 「その子が、アリシア……ですね?」     
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