第2章 スリーピングエッグ

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『ハイパー』も『ビースト』も、同じ種族で組織化する動きがあり、仲間を増やすことに懸命だった。『スリーピング・エッグ』が覚醒するまでの時間は年若いほど短く、場合によっては乳幼児の睡眠時間内で変化することもある。しかし特異能力は第二次性徴期にならないと現れず、突然の変化に驚いて自殺する者や精神に異常をきたす者も多かった。とはいえ、悩み苦しむ同種族を救うために拉致・誘拐などの強硬手段が許されるはずもない。  狙われたのが『ハイパー』発現前のアリシアだとしたら、有無を言わさず『T・アイズ』が保護するだろう。厳しい管理下に置かれ、実験動物のように扱われるに違いない。差別と偏見を最も忌み嫌うカレンは、アリシアのような少女を『T・アイズ』に預けたくはなかった。なぜならカレンの過去に、辛い記憶があるからだ。  どうすれば怯えて混乱するアリシアの心を落ち着かせ、昨夜の出来事を思い出してもらえるだろう。頭の中に様々な言葉を浮かべても、どれも陳腐で心に響くものではなかった。傷つけたくはないが、単刀直入に話してみようか?   思考を巡らせながら観察していると、アリシアの視線が携帯ストラップに注がれていることに気がついた。カレンの携帯には、有名なアニメキャラクターのマスコットが付いている。 「このネコの名前、知ってる?」 「ガーフィールド……」  最近の風潮で、擬人化した動物キャラクターは敬遠されていた。マスコットなど持ち歩こうものなら、『ビースト』支援者と思われ『アンチ・エッグ』のテロ対象にされかねない。しかしカレンにとって、このマスコットは何より大事なものだった。  十四歳で死んだ、妹の形見だ。     
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