第1章 クリスマスの惨劇

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〔2〕  死体は、どこにもなかった。 「現場を見れば、一目瞭然ね。犯人が『ハイパー』じゃ、私たちが捜査に出る幕ないかもしれない……」  カレン・コールは大げさに溜息をつくと、床に片膝をついた姿勢のまま振り返った。ポニーテールに結い上げたブロンドが、くるりと回転する。 「う~っ、じゃあ何もしないで帰るつもり?」  カレンの横に屈み込んだリタ・ショーンが、不満を表すように栗色のショートカットを両手で掻きむしった。すると床に貼り付き、僅かな塵の中に手掛かりを探していた鑑識の青年が眉をひそめる。  せめて塵でもあればと、カレンは再び溜息を吐いた。ニューヨーク市警特捜本部に配属されてまだ日が浅いが、この事件に比べれば大型の拳銃で頭を吹き飛ばされた死体や変質者に腹を切り裂かれた死体の方が、よほど捜査意欲が湧くというものだ。なにしろこの現場において、事件の痕跡となるものは人型に焼き付いた影だけなのだから。     
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