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第1章 クリスマスの惨劇
〔1〕
アリシアは小さな手のひらを重ね、そっと高鳴る胸をおさえた。この日をどれほど待ちわびたことか。
3歳の時、火事で死んだという両親の記憶はなかった。正確には、記憶が薄れていく過程だけを覚えていた。親切にしてくれた、たくさんの人達。いろいろなところに預けられたが、いつも居場所がなかった。
しかし今大切なことは、過去の記憶ではなく目の前の現実なのだ。
暖かな光を灯すクリスマスキャンドルは、アリシアの手造りだった。施設の先生に教わりながら、頑張って作ったものだ。
溶かしたロウを赤いクレヨンで色つけし、紙の型に入れて星形に固めた。赤いキャンドルのまわりには、クリスマスらしく赤と緑と金のリボンで繋げたマツボックリやヒイラギやヤドリギを飾った。アレンジを引き立てるシルクで作った薔薇とクリスタルの小さな天使は、アリシアの幸せを願う先生達からの贈り物だ。
キャンドルが置かれた広いダイニングテーブルには、湯気の立つスープと、艶やかな光沢に焼き上げられた七面鳥。ドライフルーツとナッツが入った、手作りのチョコレートケーキ。ワインとシードル、大好きなポテトフライ。
向かいに座る紳士が優しく微笑み席を立つと、アリシアの背丈ほどある暖炉前のクリスマスツリー下から、籐で編んだ大きなバスケットを手に取った。
金銀のリボンが掛けられたバスケットは、そのままアリシアの膝に移動する。
これからパパと呼ぶべき人が、白髪でいかついお爺さんでなくて良かったとアリシアは思った。養父となる紳士は、アリシアくらいの子供がいる年齢に相応しい若さで、洗練された服を身につけ整った顔立ちをしていた。そしてママと呼ぶことになる婦人は、色白で豊かな黒髪をもつ、とても美しい人だった。
施設で初めてあった時、婦人はアリシアの黒髪を撫でながら「同じ髪の色ですもの、すぐに本当の親子になれるわ」と言ってくれたのだ。
突然、膝の上でバスケットが動き、驚いたアリシアは目を丸くした。婦人が悪戯っぽく笑い、リボンをほどくように勧める。恐る恐るリボンをほどき、アリシアがふたを開くとバスケットの縁に、ふわふわした白い綿毛のような手が掛かった。
ちいさなちいさな、白い猫。
「あの、ありがとう……パパ、ママ」
パパとママになった若い夫婦は、子猫のように愛らしい8歳の少女を両腕で優しく包み込んだ。
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