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次にキャベツであった。私はそれを両手で持ち上げて、台所へと運んだ。キッチンの上にまな板を出し、真中目がけて包丁を振り下ろした。すると色が変わった。真っ二つになったキャベツの葉は、片方は目の覚めるようなオレンジ、もう片方は深いブルーになって左右に転がった。私はそのオレンジのほうを目の前に置き直して、さらに半分に切った。四分の一に割れたキャベツは、今度は紫と灰色に分かれた。切るたびに色が変わるキャベツだったのだ。私は包丁を握り直し、千切りを始めた。目の前でめまぐるしい色の洪水が巻き起こった。見たこともない、名付けようのない色がいくつも生まれた。細く刻まれたキャベツの葉の一切れ一切れが、微妙に異なる色をしていて。それがまな板の上に広がると、虹よりも鮮やかに光った。私は楽しかった。宝石の山に手を突っ込んでいるような心地がした。だが、キャベツもまた限りある物体である。これ以上、細かくは切り刻めないというところまで行ったとき、とてもつまらないものに変わった。多様を極めていたキャベツの色は、いつの間にか光を失い、さらに複雑に混じり合って、単一の黒に沈んでいった。面白くなかった。私は包丁を置き、まな板を持ち上げると、キッチンの脇に置いたゴミ箱の中へ、黒くなったキャベツをすべて流し込んだ。これは失敗だった。何をするにつけ、楽しすぎてはいけないのだった。気が付いたら取り返しがつかないことになっている。どっちにしろ、キャベツは用済みとなった。私がキャベツに対して行ったことは、何を残しもしなかった。
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