神の六畳間

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 缶は開いた。中には何もなかった。外側と同じ、銀色のスチールが内向きに湾曲して、光っているだけだった。私は悲しまなかった。何もないところへは、何かを入れればいいと、学校で何度も言い聞かされてきた。小さい頃に教わったことが、大人になっても影響力を保ち続けていることがある。私はそれを盲信していた。念ずれば叶うということも学校で習い、その通りにふるまえば、その通りになってきた。だから教育の力は偉大なのである。すべてをハッピーエンドへと導く法則を子供たちに教えるのが、大人たちの責務である。何を言っている。そんなわけはないではないか。ハッピーエンドは偽善のことを指すのだ。死んだら天国へ行けるということが宗教ならば、信仰ならば、ハッピーエンドもまた信仰によって成り立つのである。念ずれば叶うというのは、すなわち信仰であり、すなわち偽善であった。だからなんだっていい。目に見えていることがすべてだ。あとは信ずることで補うのだ。
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