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「このマフラー、あなただと思って、きっと大事にするわね。それじゃあ、さようなら」
恋人は僕の頬に手を当てて、軽く撫でたあと、部屋を出て行った。二か月、つきっきりでいてくれたのだ。彼女は自由になってよかった。涙ぐむような表情で手を振る彼女を、僕は笑顔で見送った。
扉が閉まり、あたりはしんと静まり返った。
部屋には、脳を失った僕一人が残された。もう、なにも思い悩むことはなかった。考える器官を失ってしまったのだから。また、思い残すこともなかった。
僕は何とはなしに思った。恋人は、二度と帰ってくるまい。
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