「猫扱いするな!」と猫に怒られた話

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「……いや、そんな笑えない冗談やめろって」 「冗談ではない。飼い猫がある日突然家からいなくなると聞いたことはないか?あれは自分の死を悟って姿を消すのじゃ。ワシもそうしようと思ったが、世話になった冬真には礼を言ってから別れたかったのでな」 「そんな……」 突然のことで感情が追い付かない。それでも、雪光の話を聞いて、言っていることが本当なのだ言うことは理解できた。 「ワシは冬真と出会った日に死んでいるはずじゃった。じゃが、冬真が助けてくれたおかげで今まで生きることできた。本当に楽しかった。感謝しておる。だからこそ、最後に迷惑をかけたくない。ワシが出ていっても探さないで欲しい」 そういって雪光は玄関の方に向かおうとする。雪光が死ぬという悲しみとか、何勝手に決めてんだという怒りとか、いろんな感情が押し寄せてくる。俺はそんな感情をとどめることをせず、全てぶつけてやろうと雪光を抱きしめた。 「な、どうしたんだ冬真……」 「迷惑かけたくないから家を出ていく?こんな時だけ猫らしくするのか?ふざけるな!お前最初に言ったよな、猫扱いするなって!だから俺は絶対にお前を猫扱いしないぞ!だってお前はもう俺の家族なんだよ!だから、死ぬその時まで一緒にいるし、お前の最後を看取ってやる!だから……」 その先は涙と嗚咽で言葉にならなかった。それでも俺の気持ちは雪光に届いたのだろう。 「……ああ、ワシは最後にこんな家族ができて本当に幸せじゃ。ありがとう」 そういって俺の頬を舐めてくれた。俺はそのまましばらく雪光を抱きしめていた。 俺の感情が落ち着いた後、雪光を膝の上に乗せ思い出を語り合った。出会った時のこと、すぐにふてぶてしい態度になったこと、それでケンカになったこと、仲直りしたこと、一緒に散歩したこと……。思い出は次から次に溢れてくる。俺たちは、その間ずっと笑っていた。 「ああ、本当に楽しい日々じゃった……」 その言葉を最後に雪光は喋らなくなった。雪光を見ると安らかに眠っているようだった。 「ああ、本当に楽しかった。俺の家族になってくれてありがとうな」 そう呟いてもう一度雪光の顔を見る。もう返事をしてはくれない。けれど雪光の表情はさっきよりも嬉しそうに見えた。俺の言葉が届いたのだろうか。そんなことを考えていると、いつの間にか雪光の表情が分かるようになっていたんだな、と今さらになって気づいた。
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