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パルフェが出るということは、少なくとも一度はシェフに会うかもしれない可能性が、脳裏によぎる。
「兄さん? なに、どうしたの」
八代が眉をひそめるのが見えた。
「二人ともどうしたの? リスト変だった?」
困惑する咲希の前で、蒼衣は返しが思いつかず、沈黙する。八代も咲希も、蒼衣がかつてパルフェに勤めてことは知っている。だから八代も言葉を選んでいるのだろう。しかし、咲希はすっかり忘れているようだった。
すると、勝手口のドアが開いた。
「ちわーっす、ロータス商会でーす」
厨房のドアを開ければ、材料卸の営業の声が聞こえてくる。
「材料の配達が来たから、受け取ってくるね」
その場をごまかすように、蒼衣は厨房に駆け込んだ。
「で、どうするの、催事。参加するの、しないの。どうなの」
営業が帰ったあと、待ちぼうけを食らった咲希が、急かすように問いかけてきた。
腕が組まれ、細い指がリズムを刻もうとしているのが見える。
ああ、まずい。うまいこと言葉が出ずに困っていると、八代が「咲希さん」と声をかけた。
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