第三話 葛藤

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 戦場においては、様々な環境に応じた、多様な対応を迫られる。今回のように『左腕』の出力が何らかの原因で低下した場合、それは戦闘行為におけるバランスに影響が出る。それを他の部位(パーツ)を使って影響を最小限に留める。これも重要な試験なはずだ。 「今回、お前の左腕には新型アクチュエーターが採用されている。先日破壊されたモノより、設計上は一〇パーセント出力が増しているはずだ。なのになぜ五パーセントもダウンしている? 相対差で一五パーセントダウンだ。これは誤差の範囲を超えている」  私は自分の手、左腕を見た。その素材は、人間の表皮と変わらない。人と同じ感触を持つ(スキン)。そして人間の力を遙かに凌駕する力を内包する。  だがこの手は、私の意に反しその全力を出そうとしない。  なぜなのか。  私が増加した出力を抑えているのか?  いや。  それはない。  私はこの試験項目の意図を理解し、全力を出すよう左腕に命じたはずだ。 「私には説明出来ない」 「くそ!」  アシュラムは、憎々しげに、言葉を吐き捨てた。 「もう一度だ!」  ガラスの向こうから、吐き捨てるような、そんな声が返ってきた。  私は、再度金属棒を左手で握った。  だが。  左手が、私の意に反し棒を握ろうとしない。  何かが邪魔している。  意のままに体を操れない。  ──何だ? なぜ動かない? 「何をしている!」  そのアシュラムの声に呼応するかのように、私のサブAIが悲鳴を上げた。先日暴走したサブAIだ。     
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