第23話「人間か、サイボーグか」

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○ 地球・リーヴの部屋 部屋の内装はシンプル。基本的に黒で統 一されており、大きめのクローゼットが 部屋の隅に置かれている。特徴的なのは 大型のテレビが部屋の中心に置かれてい るところである。テレビの対面には黒革 のソファー。 白いベッドが隅に置かれている。 そのベッドの上で寝息をたて、仰向けで 寝ているリーヴ。白いシーツが身体にか けられている。 リーヴ「う……う~ん……」 と、ゆっくりと眼を開くリーヴ。 リーヴ「ここは……」 男の声「目が覚めたか」 リーヴ、サッと身体を起こし、声がする 方を見る。 ベッドの横にパイプ椅子を置き、そこに 座っていたのはカイン。文庫本を読んで いたようだ。本を閉じる。 リーヴ「どうして……わたしは……」 カイン「記憶回路に問題はないはずだが」 リーヴ「!? 兄様は!?」 カイン「スラシールは……」 リーヴ「っ! そうだ、ノア様は!?」 カイン「あるじ様は庭園にいるはずだが」 リーヴ、ベッドから飛び出し、急いで部 屋から出て行く。 カイン「おい! 待て!」 ○ 同・庭園 スズメたちに餌をあげているノア。手の 上に乗せた餌をスズメがついばんでいる。 リーヴがノアの元に急いでやって来る。 リーヴの表情は真剣だ。スズメたちが飛 んでいく。 ノア「(笑顔で)やあ、リーヴ。体の方は大 丈夫かい? 一応軽くは見たけど、もっと 調べたほうがいいかもしれないね」 リーヴ「……ノア様。話があります」 ノア「なんだい?」 リーヴ「兄様の体に何かしましたか」 ノア「――ああ、少しね」 リーヴ「そうですか」 と、ノアに掴みかかり、喉元に小太刀を 突きつける。 リーヴ「何をしたんですか」 ノア「スラシールにあることを頼まれてね」 リーヴ「あること……それは何ですか」 と、小太刀をもっと喉元に近づける。 ノア「僕が言うことを信じるのかい?」 リーヴ「この状況で嘘をついたらどうなるか 分かるでしょう?」 ノア「僕は別に切られてもいいんだけどね」 リーヴ、冷たい目になる。 リーヴ「話す気はないと」 ノア「何を言っても君は聞く耳を持たないだ ろう。なら、いっそのこと僕の喉元を掻っ 切って、鬱憤を晴らせばいいと思ってね」 リーヴ「そう、なら――そうさせてもらうわ」 リーヴ、小太刀を振り下ろす。切っ先が 喉元に触れる直前――。 カインの声「そこまでだ」 カイン、リーヴを蹴り飛ばす。 ふっ飛ばされたリーヴ、壁に激突する。 リーヴ「かはっ」 カイン、ノアに手を差し伸べる。 カイン「大丈夫ですか」 ノア、カインの手を握り、立ち上がりな がら、 ノア「僕は切られてもよかったのに」 カイン「ですが……」 ノア「まあ、いいや。ありがとう」 カイン「もったいなきお言葉」 カイン、深くお辞儀する。 小太刀が一本、カインに飛んでくる。 カイン、片手で弾く。 カイン「とっさに後ろに飛び、衝撃を和らげ ましたか。流石ですね。戦い慣れてるだけ ある」 リーヴ「褒めても何も出ないわ」 カイン「でしょうね」 リーヴ、二本の小太刀を懐から取り出し、 構える。 カイン「はぁ……。リーヴさん、少し話をし ませんか」 リーヴ「あなたと話すことなんてなにもない」 カイン「お兄さまのことでも?」 リーヴ「!?」 カイン「実はスラシールから頼まれていたこ とがありましてね」 リーヴ、カインの顔を凝視する。 リーヴ「嘘じゃないでしょうね」 カイン「嘘だと思ったら、いつでも切ってく 下さっていいですよ」 リーヴ「……」 リーヴ、ゆっくりと構えを解く。 リーヴ「とりあえず信じてあげますわ」 カイン「私についてきてください」 カイン、ノアに丁寧にお辞儀をして、 カイン「あるじ様、失礼いたします」 ノア「ああ、いっておいで。リーヴ」 リーヴ、振り返る。 ノア「僕ならいつ切られてもいいからね」 リーヴ「ふん」 カインとリーヴ、出ていく。 ノアの肩にスズメが止まる。 ノア「はぁ。(スズメに)冗談じゃないのに ね」 スズメが首をかしげる。 ○ 同・廊下 薄暗い照明で照らされている廊下。その 中をカインが先に歩き、リーヴがすぐ後 ろを着いてくる。 リーヴ「どこに行くのよ」 カイン「ついてくれば分かります。あなたも よく知っている場所ですよ」 リーヴ「嘘ならいつでも切るから」 カイン「どうぞ。(足を止め)ああ、もう着 きましたよ」 リーヴ「えっ、だってここは」 木造のドア。名前が書いてあるプレート がついている。スラシールと英語で書い てある。 カイン「ええ、あなたのお兄さまの部屋です よ」 ○ 同・スラシールの部屋 カインがドアを開け、先に入り、その後 にリーヴが入る。 畳が敷かれた純和風のレイアウト。座布 団やちゃぶ台、桐だんすのようなものも ある。 カイン、部屋に入ろうとして、 カイン「ああ、土を払わないといけませんね」 靴を脱ぐ場所(たたき)がある。 カイン、足の裏に着いた土や汚れを払い、 部屋に入り、見回る。 カイン「まったくよくこんなに前時代のもの を集めましたね」 リーヴも馴れた手つきで土を払い、部屋 に入る。 リーヴ「何でも日本?というところから集め たらしいですわ」 カイン「ああ、彼の管轄でしたね」 リーヴ「この地味で目立たない感じがいいん だ。落ち着くとよく言っていましたわ」 カイン「私には分からない感覚ですね。ああ、 用を済ませないといけませんね」 カイン、部屋の隅に置いてあるPCに向 かう。デスクトップタイプのPCだ。 カイン「よくこんな旧式のタイプが動きまし たね」 リーヴ「ノア様が修理したと言ってましたわ」 カイン「ああ、なるほど」 と、PCの電源を入れる。 デスクトップ画面が表示される。 カイン「ログインパスワードなんて、彼は知 らないんでしょうね」 リーヴ「お兄さまは徹底的にそういうのはダ メでしたから」 カイン「ロボットなのに苦手とかほんとよく 分からない方ですねえ」 リーヴ「それがよくノア様が言う個性なんじ ゃないの? よく分かりませんけど」 カイン「そうかもしれませんね」 と、マウスを動かし、デスクトップ画面 にあった動画アイコンにポインタを合わ せる。 カイン「これですね」 と、リーヴを手招きする。 リーヴ、のぞいて。 リーヴ「動画?」 カイン「ええ。まあ、見てから私の処遇を決 めて下さい」 と、ダブルクリック。 動画のウィンドウが開く。 ○ 動画 スラシールの正面のバストアップ。 スラシール「(慣れない感じで)これはもう 話し出してもいいのか?」 カインの声「ええ、大丈夫ですよ」 スラシール「了解した」 スラシール、緊張したような慣れないよ うな表情から真剣な顔になり。 スラシール「妹よ。お前がこれを見ていると いうことは、恐らく私はもういないんだろ う。いないというのは抽象的すぎるか……。 まあ、なんというかあれだ。存在していな いというか……」 ○ 地球・スラシールの部屋 動画を見ているリーヴ。 リーヴ「口下手……」 ○ 動画 スラシール「死んでいる。その表現が一番正 鵠を射ているか。そう、俺はもう死んこの 世にはいない。だからここに記録として残 しておこうと思ったのだ」 ○ 地球・スラシールの部屋 動画を見ているリーヴ、つばを飲む。 ○ 動画 スラシール「まず天帝、ノア様を恨むなとい うことは言っておきたい。全ては俺が頼ん だことだ」 ○ 地球・スラシールの部屋 リーヴ「えっ」 ○ 動画 スラシール「俺の体を誰かが解析した際、自 分自身を暴走させるようにプログラムして 欲しいと頼んだのだ」 ○ 地球・玉座の間(回想) ノアは玉座に座り、スラシールはノアの 前に跪いている。 ノア「別に僕は構わないけど、本当にいいの かい?」 スラシール、顔を上げ、 スラシール「はい、お願いします」 ○ 動画
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