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第17話 「小さな一歩」
○ 地球・中国・万里の長城・城壁の上
対峙しているカミラ・エマ、リーヴ。
リーヴ「ええ、あなたの思っているとおりで
すわ」
エマ「……どういうこと……?」
リーヴ「お隣に聞いてみるとよろしいですわ」
エマ、カミラを見上げる。
カミラ「――痛みを感じれるのよ」
エマ「どうしてそんなこと……」
カミラ「……痛みを感じないと生きている気
がしないから。そうでしょ?」
リーヴ「ご名答ですわ」
と、右手にべっとりとついた赤色の人工
血液(オイル)を見て、
リーヴ「ほんとーうにきれいですわ」
二チャリと笑う。
カミラ「はぁ……狂ってるとまでは言わない
けど、だいぶ屈折してるわね」
リーヴ「わたくしからしてみれば、あなたた
ちのほうがおかしく感じますわ。この快感
を手放してしまったなんて」
カミラ「好きでこうなったんじゃないわよ」
リーヴ「あら、それは残念」
リーヴ、カミラに急接近し、カミラの目
の前に。
カミラ「!?」
リーヴ「なら、おすそ分けしてあげますわ」
と、左手で自らの腹部を抉り、人工血液
をべったりとつけ、それをカミラの目に
向かってまき散らす。
カミラ、まともにその血液を目に喰らい、
カミラ「くそっ!」
リーヴ「さて、あなたの血はどんな味がする
のかしら!」
リーヴ、右手に持っていた小太刀でカミ
ラの首元を狙う――が、右手が進まなく
なる。
リーヴ「!?」
リーヴ、右手を見る。手首にチェーンが
巻かれている。
リーヴ「ちっ!」
リーヴ、チェーンの先を見る。チェーン
の先にはモーニングスターを持ったエマ。
エマ「わたしもいるの忘れてた……?」
リーヴ、左手を着物の襟に入れ、小太刀
を取り出し、エマの顔に向かって投げる。
エマ、避ける。チェーンが少し緩む。
リーヴ、その隙にチェーンから逃げ、ジ
ャンプをして、カミラとエマから距離を
取る。
リーヴ、エマを見て、左手を着物の襟に
入れ、小太刀を取り出し、構える。
リーヴ「さきに殺らないといけないのはあな
たのほうでしたわね」
リーヴ、前傾姿勢になり、エマに急接近。
エマの懐に入る。
エマ「!?」
リーヴ「あなたの武器の弱点はぁ、近づかれ
るとどうしようもないことですよねぇ」
エマ、モーニングスターを捨て、頭を守
るように、顔の前で腕を交差させる。
リーヴ、エマの体や、腕などを切りつけ
まくる。ただどれも致命傷には至らない。
リーヴ「フフフフフ。お返しに切って切って
切りまくってあげますわ」
リーヴ、さらにエマの体や腕などを切り
まくる。
エマ「――っ」
防戦一方のエマ。痛がる様子はない。
リーヴ「(切りながら)はぁ、面白くないで
すわねぇ」
リーヴ、思いっきり右手を振り上げ、
リーヴ「これで終わりにしますか」
エマの頭に向かって、振り下ろされる小
太刀。
エマ「んっ……」
思わず目をつぶるエマ。
カミラの声「エマ!」
ドン! という衝撃音。
エマ、驚いて目を開ける。
ワシのような鳥型に変形したカミラが、
リーヴの体に突進している。くちばしで
横腹を噛んでいる。
リーヴ、なんとか耐え、覆いかぶさるよ
うにカミラの頭をつかむ。
リーヴ「なんでっ! 目は見えないはず……
っ!」
カミラ「あなた忘れてない? 私たちは頭以
外はあなたたちとほぼ変わらないって!」
リーヴ「! 赤外線……!」
カミラ「ご名答!」
カミラ、羽ばたき、ブーストの出力を上
げ、上空まで飛んでいく。
○ 同・同・同・青空
カミラ、リーヴを噛んだまま、上に向か
って飛んでいる。
リーヴ、小太刀をカミラの体にブスブス
と刺している。
リーヴ「くそ! 離しなさいよ!」
カミラ「そんなもんじゃ私は止まらないよ!」
カミラ、急降下する。
○ 同・同・同・城壁の上
カミラ、落ちてくる。
リーヴ「くそくそ!」
カミラ「言葉遣いが荒くなってるわよ」
カミラ、目前に城壁が迫っている。
カミラ「ここ!」
城壁に当たる直前。カミラ、噛むのをや
め、リーヴを離す。
リーヴ、城壁を縦に貫いていく。衝撃で
城壁にヒビが入り、倒壊していく。
カミラ、上に向かって飛び、負傷して立
っているエマの横に着地(変形は解いて
いる)。
エマ「カミラお姉ちゃん……」
カミラ、ぐいぐいと目元をこすり、リー
ヴの人工血液を落とす。薄く残っている。
カミラ「(ハイタッチをしようとして)ほら、
エマ」
エマ「……うん!」
エマとカミラ、ハイタッチする。
○ 同・エジプト・ギザの大ピラミッド前
対峙するサラとアベル。
アベルは腰を落とし、構えている。
サラは体制を低くし、両腕で頭を抱える
ような態勢を取る。
アベル、訝る。
アベルM「なんだ、あの構えは……」
サラ「かかってこないのかい?」
アベル「チッ……。何か策があるんだろうが、
のってやるよ!」
アベル、地面を蹴り出し、サラに猛ダッ
シュ。サラの顔に向かって、右手を振り
かぶる。
アベル「おらっ!」
サラ、左腕でアベルの攻撃をはじき、が
ら空きになったアベルの背中に、回転を
つけて左肘を思いっきり叩きつける!
アベル「がはっ!」
思わず、顔面から地面に叩きつけられる
アベル。
サラ、間髪を入れず、両肘でアベルの背
中を狙う。
が、アベル、すんでの所で横に転がり、
その攻撃を避ける。
サラの両肘の攻撃は地面をえぐる。
アベル、サラから距離を離し、見つめる。
ペッと砂を吐き出し、
アベル「――頭を守るための格闘術か」
サラ、また同じ構えを取り、
サラ「正解。さすがだね」
アベル「見たことないな。どこでそんなの覚
えた?」
サラ「映画だよ」
アベル「映画? なんだよそれ」
サラ「まあ、一種の芸術作品みたいなものさ。
そういうものばかりでもないけどね。友達
に好きなのがいてね」
クロエがサラに熱く語っているカット。
サラ「その友達が見せてくれた映画にこの動
きがあってね」
アベル「へぇ。今度俺にも見せてくれよ」
サラ「そんな機会があればいいけど――ね!」
サラ、頭を抱えた姿勢のままアベルに向
かってダッシュ。
アベル「へぇ。その体勢で攻めるのかよ!」
アベル、迫ってくるサラに向かって右手
で殴りかかる。
サラ、左腕でその攻撃をはじく。
アベル、左手で殴りかかる。
サラ、右腕でその攻撃をはじく。
アベル「チッ、なら――」
アベル、思いっきり右蹴りを放つ
サラ、左腕でその攻撃をはじくが、あま
りの衝撃に腕がしびれ、構えが解ける。
サラの左側面が、がら空きになる。
アベル「もう一発!」
アベル、がら空きになったサラの左ボデ
ィに、右蹴りを放つ。
サラ「(ニヤッと笑い)おあいこだ」
アベル「なっ」
サラ、アベルの懐に入り、アベルの頭を
右腕で抱え、そのまま自分の頭のほうに
勢いよく持って来る!
アベル「!!」
サラ、思いっきり頭を振り、アベルの頭
に自分の頭を叩きつける! 頭突きだ。
同時に、アベルの右蹴りもサラの左ボデ
ィに入る。
同時に響く重い音。
吹っ飛ばされ、ピラミッドに激突するサ
ラ。ピラミッドの一部が崩壊する。
アベル「頭を守る格闘術で、頭を武器にする
ってどういうことだよ……」
アベルの視界がブツブツと切れている。
黒くなったり、白くなったり。
アベル「チッ……。カメラがイカレちまった
か……」
と、吹っ飛ばされたサラの方を見て、
アベル「この勝負は持ち越しだな」
○ 同・ヴェネチア・別の屋根の上
リーザ、他のサイボーグたちのそばにい
て、
サイボーグ女1「隊長、クロエさんひとりだ
けで大丈夫なんですか?」
リーザ「大丈夫。クロエは強いから」
クロエの声「(大声)これは反則でしょっ…
…!」
サイボーグ女1「本当に大丈夫でしょうか…
…」
リーザ「(クロエがいる方に振り返りながら)
行ってくる!」
サイボーグ女1「お気をつけて!」
○ 同・同・屋根の上
リーザ、着地する。顔を上げると、ムチ
で両手両足ごと体を縛られたクロエの姿。
リーザ「クロエ!」
マレイア「あらぁ、ちょっと遅かったわねぇ」
リーザ「クロエを離せ!」
マレイア「離せと言われても、私の手にはム
チはないしィ?」
マレイア、残った右腕を広げて見せる。
リーザ「!? ……そういうことか」
マレイア「あら、あなたはオツムがいい方ね。
話しやすくていいわぁ」
リーザ「ムチ自体を遠隔で操作している……」
マレイア「ご名答。私の自由に動いてくれる
かわいいペットみたいなものかしらぁ」
クロエに巻かれたムチが絞まっていく。
クロエ「ぐっ……クソ、動けない……」
リーザ「クロエ!」
マレイア「フフフ。あとどれぐらい痛めつけ
ようかしらねえ。私、気づいたのよ」
リーザ「?」
マレイア「あなたたちの体を痛めつけてもし
ょうがないことにねぇ。痛みを感じないん
だし。でも、(右手を胸に当て)ここは違
うでしょォ?」
リーザ、ハッとし、
マレイア「当たりみたいねぇ。この子を痛め
つけて、あなたの心を痛めつける。それな
ら、あなたの苦しむ姿を見られるわよねぇ
(ニヤリと笑う)」
リーザ「外道……」
マレイア「あら、正解よ。人じゃないもの」
さらにムチが絞まる。クロエの体に少し
ひびが入る。クロエ、懸命にムチから脱
出しようとしている。
リーザ「くっ……」
と、震える両手で大剣を構える。
マレイア「あらァ、私を切れるのかしら?
あなたに」
さらにムチが絞まる。ヒビが広がってい
く。
マレイア「あなたが私に剣を振るうのと、こ
の子が粉々になるのは、どちらが早いかし
らねぇ」
さらにムチが絞まる。左腕が折れる。
クロエ「ああ、もう!」
リーザ「クロエ!」
マレイア「フフ」
リーザ(M)「私がなんとかしないと、クロ
エが――」
以下、フラッシュバック。
リーザの両親が血塗れで倒れている姿。
スラシールに切られていくクロエ、イレ
ーネ、カミラの姿。
倒れているエマ、サラに、ユリアがハン
マーを振り下ろそうとしている姿。
リーザ「そう、もう――」
マレイア「あら?」
リーザ「私は目の前で誰かを失うことは嫌な
んだ!!」
リーザ、思い切り右足を一歩、踏み出し、
大剣を大きく一振り。剣圧がマレイアに
向かって飛んでいく。
マレイア(M)「これは……避けないとマズ
いっ!」
避けようとするが、完璧には逃げ切れず、
右腕をフッ飛ばされる。噴水のように飛
び散るオイル。
マレイア「ギャアアアアァァァ!!」
クロエを絞まっていたムチが緩み、クロ
エがその場に倒れる。
リーザ「やった――? クロエ!」
リーザ、クロエを抱き起こし、膝に乗せ、
リーザ「クロエ! クロエ!」
クロエ、目を開け、
クロエ「リーザなら助けてくれるって信じて
たよ……」
と、右手でサムズアップ。
リーザ、その右手を両手で包み、
リーザ「うんうん……! 良かったぁ!」
クロエ「へへ。泣けるならここで泣くんだろ
うなぁ。映画で見たことあるよ」
リーザ「そう……かもしれないね。立てる?」
クロエ「支えがあれば」
リーザ「仕方ないね。――っと」
リーザ、クロエに肩を貸し、起こす。
クロエ「ありがとう」
リーザ「さて、あとはあいつをどうするか…
…」
リーザの視線の先。両腕を失ったマレイ
アが悠然と立っている。
リーザ「まだやる気?」
マレイア「正直、やる気はそがれたわね……」
ムチがマレイアの体に巻き付いていく。
マレイア「闘えるけど、気力はない感じかし
ら」
リーザ「そう。こっちはまだいけるけど?」
マレイア「フフ。そうみたいね。でも、私は
お邪魔するわ。こっちも暇じゃないのよ」
リーザ「暇じゃない……?」
マレイア「フフフ。緊急事態ってやつかしら
ね。またお会いしましょう。その時はもっ
と痛めつけてあげるから」
マレイアの体が背景と重なり合うように
消えていく。
マレイア「その時は私のかーわいい妹を紹介
するわね」
リーザ「楽しみにしてるよ」
マレイア「フフフ」
マレイアの体が完全に見えなくなる。
リーザ、左耳に左手を当て、
リーザ「マレイアの姿は?」
吉乃の声「レーダーから完璧にロストしてい
ます。ステルスかと」
リーザ「ほんと便利な機能だね。こっちにも
欲しいぐらい」
クロエ「緊急事態って何だろうね。逃げる言
い訳かな?」
リーザ「さぁ、どうだろう。でもみんなが無
事で良かったよ」
クロエ「(笑顔で)そうだね!」
リーザ、笑顔で返す。
○ 同・日本・軍艦島
T「同時刻」
四肢を切られ、あおむけに倒れているス
ラシール。
それを見下ろしているエーデル。刀につ
いた赤い人工血液を振り払い、鞘に戻し、
エーデル「んーっ! 任務完了っと」
(第17話 終)
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