第3話 「過去、そして一波乱」

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○ リーザの意識の中 真っ暗闇。 その中をフワフワと漂っているリーザ。 目はつぶっている。 ○ 月・公園・10年前(2240年) T「2240年」 原っぱでクローバーをむしっているリー ザ(4)。金髪のポニーテール。白のワ ンピース。碧眼。 シズネ・パーシヴァル(28)とアーサー ・パーシヴァル(32)、ベンチに座り、 リーザを見ながら談笑。 シズネは薄いピンク色のドレス風の衣装。 アーサーは茶色のジャケット、白色のシ ャツ、青色のジーパン。ラフな格好。 リーザ、クローバーをむしるのをやめ、 花冠を作り始める。花冠を完成させ、笑 顔になる。アーサーたちの所へ駆け寄り、 花冠を差し出し、 リーザ「あげる!」 アーサー「どっちにだい?」 リーザ「あっ! えーと、えーと――ママ!」 と、花冠をシズネに手渡す。 シズネ、受け取り、 シズネ「あら、ありがとう」 アーサー「パパには?」 リーザ「今から作る!」 と、むしっていた場所に駆け戻り、キョ ロキョロと辺りを見回す。 クローバーがたくさん生えている場所に 気づいたようで、そこへ向かって駆ける。 アーサー「(笑顔で)フフ、楽しみだなぁ」 シズネ「何が?」 アーサー「君のよりもきれいなものを、持っ てくるかもしれないじゃないか」 シズネ「あら、じゃあ勝負します?」 アーサー「望むところだ」 お互い、笑顔。 リーザ、クローバーをむしる手を止め、 アーサーたちのほうに振り返る。   笑顔のアーサーたちを見て、首を傾げる。 クローバーをむしるのを再開する。 そんなリーザたちの様子を、遠くから見 ている九条吉乃(9)。リーザを注視。 吉乃「……」 リーザ、吉乃の視線に気づいたのか、ク ローバーをむしるのをやめ、吉乃を見る。 吉乃、少し驚き、視線をそらす。顔が少 し赤い。 吉乃の友人の声「おーい! 吉乃ー! 何し てんだー! 置いてくぞー!」 吉乃、ハッとし、 吉乃「うん、今行くー!!」 と、駆けていく。吉乃の背中を見ている リーザ。 リーザ「変な子ー」 と、クローバーをむしるのを再開する。    ○ 同・パーシヴァル家・リビング・10年前 (2240年) リーザ・アーサー・シズネ、四角いテー ブルを囲って食事中。各人の前にはクリ ームシチューが置いてあり、中央にはサ ラダが入った大きなボウル、パンが入っ た大きな皿が置いてある。 リーザ、スプーンを使い、クリームシチ ューをズズズッと音をたてて飲む。 シズネ「こら。音をたてて飲まない」 リーザ「なんでぇ」 シズネ「いつも言っているでしょう。女の子 は淑女じゃないといけないの」 リーザ「だって、しゅくじょ? って言われ てもわかんないもん」 シズネ「淑女っていうのはね――」 アーサー「(クスクスと笑いながら)まだリ ーザには早いって」 シズネ「でも――」 アーサー「君はどうたったんだい?」 シズネ、空を仰いで、数秒停止。少し頬 を赤らめ、 シズネ「(早口で)そうね。まだ早いわね」 アーサー、フフフと笑う。 リーザ「(空の皿をシズネに向けながら)パ ンを取ってー」 シズネ「はいはい」 と、パンを一つだけトングのような物で つかみ、皿にのせる。 リーザ「ありがとー」 シズネ「どういたしまして」 リーザ、パンをひとかじり。パンくずを ぼろぼろと落とす。気にせず食べる。 アーサー「ハハ……。少しは教えたほうがい いかもね……」 シズネ「でしょう?」 お互い笑い合う。 リーザ、話についていけず、首をかしげ る。 ○ 同・同・アーサーの部屋・10年前(2240 円) かなりの量の書物が平積みされている。 考古学関連の本がほとんど。 真剣な表情のアーサーが、机の前で書物 を読み漁っている。両脇にも大量の本が 平積み。 ○ 同・同・シズネの部屋・10年前(2240年) ベッドの上のシズネとリーザ。枕元だけ 明かりがついている。 足を伸ばしているシズネの上にリーザが 乗っている形。 シズネ、リーザの前で絵本を開き、読み 聞かせている。 リーザ、ウキウキとした表情で、絵本を 見ている。 シズネ「はい、おしまい」 と、絵本を閉じる。 リーザ、シズネに振り返り、 リーザ「ねえねえ、地球ってなーに?」 シズネ「今、読んだじゃない」 リーザ「よくわからなかったー。きれいなと ころー?」 シズネ「そうねぇ。私も本でしか読んだこと ないけど。お花とかがいーっぱい咲いてい るらしいわよ」 リーザ「いっぱいってどれくらい? いつも 行く公園ぐらい?」 シズネ「もっとよ。もっと。すごーくお花が 咲いてるのよ。すごーくよ。すごーく」 リーザ「そうなんだー! 行ってみたいー!」 シズネ「いつか行けたらいいわね」 リーザ「行けないのー?」 シズネ「今はね」 リーザ「えー。いつ行けるのー?」 シズネ「いつでしょう? 今、地球は悪い人 たちがいて行けないのよ」 リーザ「そうなのー。ざーんねん」 シズネ「その悪い人たちがいなくなったら、 きっと行けるわよ」 リーザ「じゃあ、それまで楽しみまってるー」 シズネ「フフ。そうね。じゃあ、おやすみし ようか」 リーザ「パパはー?」 シズネ「今日もお仕事。パパの部屋に行っち ゃ駄目よ」 リーザ「わかったー」 シズネ、リーザの頭をなでる。 シズネ「フフ。いい子ね。じゃあ、おやすみ」 リーザ「おやすみなさいー」 シズネ、明かりを消す。 ○ 大型戦艦アスモデウス・メンテナンス室 カプセルの中で、目を覚ますリーザ。カ プセルのふたが開けられ、起き上がる。 リーザ「……」 と、周りを見回す。 他のカプセルのふたも開いており、 リーザのように周りを見回すサイボーグ たちもいれば、ただ正面を見据えている 者もいる。その中にはカミラもいて、カ ミラはボーッとしている。 テレサ、カプセルが並んでいる中央で、 テレサ「皆さん、メンテナンスは終了です。 お疲れ様でした」 と、頭を下げる。 テレサ「では、こちらから順番に退室をお願 い致します」 サイボーグたち、その指示に従い、メン テナンス室から退室していく。 ○ 同・通路 リーザとカミラが並んで歩いている。 リーザ「ねぇ、カミラ」 カミラ「何?」 リーザ「カミラはメンテナンス中、夢って見 ないんだよね?」 カミラ「そうねぇ。熟睡してるんでしょうね」 リーザ「起きた後、いつもボーッとしてるも んね」 カミラ「わたし的にはもっと寝ていたいんだ けどね」 リーザ、宙を見て、少し考える様子。 カミラ「どうしたの?」 リーザ「うーん。夢に出てきた男の子、誰な んだろうって」 カミラ「男の子?」 リーザ「私がクローバーを拾っていたら、男 の子がこっちを見ててさ」 カミラ「リーザの初恋の人だったりして」 リーザ「(即答で)それはない」 ○ 同・九条吉乃の部屋 日本語で書かれた書物が、キチンと並ん で置かれている本棚がいくつもある。 ひとり用のベッドの上で、うつぶせにな りながら、立体ホログラム化された本を 読んでいる吉乃。 端末の電源を切る。本が収納される。あ おむけになる吉乃。 吉乃「はぁ……。リーザさんは僕のことを覚 えているんだろうか……」 ○ 同・通路 リーザ「くしゅん!」   と、クシャミをする。 カミラ「珍しいわね、クシャミなんて。どこ か故障してるんじゃない?」 リーザ「メンテナンスのあとなのに? たま たまだよ。逆に、メンテナンスのあとだか らかも。あっ」 と、正面方向を指差す。その方向を見る カミラ。 カミラ「クロエ、イレーネ!」 と、クロエたちのほうへ駆け寄ろうとす る。 カミラ「げっ」 が、その足が止まる。 イレーネ、両手いっぱいにパンを抱えて いる。パンは袋に入っていて、種類は様 々。 クロエとイレーネ、リーザたちに気づく。 クロエ「あー、カミラとリーザだー」 イレーネ、パンを顔の位置まで抱えてい るため、顔を横にずらし、 イレーネ「どうも」 リーザ、視線をイレーネの右腕を見なが ら、 リーザ「腕は大丈夫だった?」 イレーネ「問題なかったわ」 カミラ「(あきれ顔で)それだけパンを抱え れれば大丈夫でしょ……」 リーザ「いつものことだけどね」 イレーネ「メンテナンスの後は、おなかが減 る」 カミラ「それはそうだけど、それは食べ過ぎ でしょ」 イレーネ「どうせ太らないし、またメンテナ ンスで空っぽになる。合理的でしょう。ク ロエ」 クロエ「はいはーい」 と、パンの山から崩れないようにパンを ひとつ抜き取り、袋を開ける。   取り出したパンを、口を開けていたイレ ーネの口の中に放り込む。  あぜんとするリーザとカミラ。 モグモグという感じでパンをかんでいる イレーネ。 カミラ「なんでクロエが食べさせてるの…… ?」 なおもパンをかんでいるイレーネ。 クロエ「それはね、クロエがイレーネちゃん の奴隷だからー!」 驚くリーザとカミラ。 リーザ「奴隷……?」 カミラ「(わりかし真剣な表情で)あんたね ぇ」 イレーネ、パンを食べ終わり、 イレーネ「(クロエに向きながら)言い方が 悪いわよ、クロエ」 クロエ「えっ、そう?」 イレーネ「私の右腕を負傷させたおわびで、 今日一日は私の言うことを聞くでしょ」 クロエ「同じじゃない?」 イレーネ「全然違うわよ」 リーザ「うん、違うね」 カミラ「もう、驚いたじゃない」 クロエ「とりあえず、そういうこと!」 カミラ「そういえば、(クロエとイレーネを 見ながら)あんたたちは明日の休暇日はど うするの?」 クロエ「クロエはいつも通り映画を見に行く かなー。見たいのがたまってるんだよー」 イレーネ、先と同じように顔をずらし、 イレーネ「私は特に――」 クロエ「じゃあ、一緒に映画を見ようよ!」 イレーネ「それは嫌。クロエ、先に話を言う ことがあるし」 クロエ「ちぇー(残念そうに)。リーザは?」 リーザ「ごめん。私はいつもの古書店に朝か ら行くから」 カミラ「ほんと好きよねぇ。あの無愛想なじ いさんによく付き合えるわ」 リーザ「仲良くなると、いい人だよ。無愛想 なのは変わらないけど」 カミラ「そうかしらねぇ……。ああ、私はち びたちの御守だから」 クロエ「あー、先に言ったー!」 笑い合う4人。リーザとイレーネはクス クス笑い。クロエは大げさに笑う。 カミラはその中間ぐらい。 ピンポンパンポンという音。 艦内アナウンス「第157期団のメンバーにお 知らせです。明日の朝、第538回地球奪還 作戦の戦闘結果から考慮し、ナンバーを発 表する予定ですので、第157期団のメンバ ーは大ホールに集合して下さい。正確な時 間は後ほどお知らせします。繰り返します ――」 リーザ「(がっくりと肩を落としながら)ゆ っくり絵本を選ぼうと思ったのに……」 カミラ、リーザの肩をポンとたたき、 カミラ「しょうがないわよ。昼から行けばい いじゃない」 リーザ「うん……そうする……」 ○ 同・司令官室・前 霧江、虹彩認証式のドアのから少し離れ たところに立っている。深呼吸をし、ド アの前へ。 虹彩認証のシステムが起動しようとした ところで、ドアが開かれる。 ドアの向こうにはエーデル。書斎デスク のようなものの向こう側、黒革の豪華に 見える椅子に座っている。 紙の書類を見ながら、霧江を見ずに、 (この時エーデルの周りには透過された ディスプレーがいくつも浮いている) エーデル「入ってもいいぞ」 霧江、負けたというような表情をし、 霧江「失礼します」 司令官室に入って行く。 ○ 同・司令官室 エーデル、紙書類を見ながら、 エーデル「で、何の用だ」  霧江、エーデルの前にいる。 霧江「昨日のウィルスチェックのデータをま とめましたので」 と、約5枚ぐらいの紙書類をデスクの上 に置く。 エーデル、その書類に目を向け、 エーデル「ご苦労。問題はなかったか」 霧江「異常なしです」 エーデル、今まで見ていた書類をデスク の上に放り投げ、 エーデル「めんどくさいな」 霧江、放り投げられた書類を見て。 霧江「これは――ナンバー付けですか」 エーデル「そう。やっぱり気になるか? ( フフフと笑い)ナンバー2としては」 霧江「それは――そうですね。拝見してもよ ろしいでしょうか」 エーデル「ご自由に」 霧江「では、失礼します」 と、放り投げられた書類を取り、ペラペ ラと見て、丁寧にデスクの上に戻す。 霧江「彼女、リーザ・パーシヴァルはどうな さるのですか」 エーデル、両腕を組み、 エーデル「それが一番悩んでいる」 と、浮いていた透過ディスプレーを操作 する。 リーザが龍型ロボットと退治している映 像が映し出される。 霧江「私も拝見しても?」 エーデル、うなずく。 霧江、エーデルの横につく。 リーザが龍型ロボットを倒したときの映 像が、ループで流れる。声つきで。 霧江「彼女は……ロボットをとても憎んでい るのですね」 エーデル「リーザはロボット暴走事変の時の 生き残りだ」 霧江、驚く。 霧江「あの10年前の……彼女が……そうです か」 エーデル「(フフフと笑い)お前とそっくり だけどな」 霧江、眼鏡に触れる。悲しく遠くを見る ような表情。 霧江「まあ、否定はしません」 エーデル「それにしても、彼女のナンバーを どうするべきか……」 霧江「相当に上の位でいいのでは? 強さは 申し分ないように見えますが」 エーデル、うーんと悩むようなしぐさ。 エーデル「しかし、彼女には少し問題があっ てな」 霧江、首を傾げる。 エーデル「(ため息をつき)本当にめんどく さい仕事だ」 霧江「……。ところでユリアを見かけません でしたか?」 エーデル「いや、こちらには来てないが。ま た、その辺りをぶらついているんじゃない か」 霧江「(ため息をつき)はぁ、あの子にも困 ったものです……」 エーデル「(ため息をつき)お互い頑張ると しよう」 ○ 同・通路 ユリア・レオニート・ヤコブレフ(見た 目は12歳)が笑顔で歩いている。 銀髪のツインロングテール、ピンクのゴ シックロリータ風の服を着ている。 漫画に出て来るようなペロペロキャンデ ィをなめている。 ユリア「(鼻歌を歌うように)フッフッフッ、 フンフンフーン」 ピンポンパンポンという音。 ユリア、ピタッと立ち止まる。 艦内アナウンス「第157期団のメンバーにお 知らせです。明日の朝、第538回地球奪還 作戦の戦闘結果から考慮し、ナンバーを発 表する予定ですので、第157期団のメンバ ーは大ホールに集合して下さい。正確な時 間は後ほどお知らせします。繰り返します ――」 ユリア「えへへ。明日は楽しめそう!」 満面の笑み。 ○ 同・司令室 リーザ・カミラ・クロエ・イレーネ・サ ラ・エマ、横に並んで立っている。 彼女らの前、書斎デスクの向こう側、エ ーデルが立っている。傍には霧江。 霧江「リーザ・パーシヴァル、前へ」 リーザ「はい」 と、エーデルの前へゆっくりと歩き、止 まる。エーデルを見据える。 エーデル「リーザ。お前にはナンバー36を進 呈する」 リーザ「はい」 エーデル「以後、より一層励むように」 リーザ「はい」 エーデル「下がっていいぞ」 リーザ「はい」 と、一礼。後ろに下がる。 エーデル、リーザたちを見回す。 エーデル「お前達のナンバー情報は、あとで 全サイボーグたちに共有されるから、その つもりで」 リーザたち、一斉にうなずく。 エーデル「これで終了だ。午後からはゆっく り過ごしてくれ」 リーザたち「はい!」 と、一列に並んで出て行く。 リーザ、出て行く前に、隅に置いてある クローゼットをじっと見てから、出て行 く。 閉まる自動ドア。 一瞬の沈黙。 エーデル「さてと……。いつまでそこにいる つもりだ――ユーリカ」 ユリアの声「あーあ。バレちゃったぁ」 と、笑顔で部屋の隅に設置しているクロ ーゼットの中から出て来る。 霧江「はぁ……。私にもバレていますよ」 ユリア「えー。玲にもー。結構、静かにして たんだけどなー」 エーデル「殺気を隠せていないぞ」 ユリア「えー! 殺気なんて出してないよー !」 エーデル「バレバレだ」 霧江「私は殺気なんて分かりませんが……。 まあ、気配を隠せていませんのは確かです ね」 ユリア「(頬を膨らませ)ぶー! もういい もん!」 エーデル「で、何を見たかったんだ?」 ユリア「そんなのもう――(にやりと笑い) 分かるでしょ」 エーデル「……」 ユリア「あのリーザってお姉さん。ナンバー 36なんてあり得ないよね?」 エーデル「何が言いたいんだ」 ユリア「もっと上だよねー。何か秘密があり そう」 エーデル「別に何もない」 ユリア「へっへー。うそだー。あのお姉さん だけ、私の気配に気づいてたもん」 エーデル「……」 ユリア「ちょっと調べてみよっーと」 と、部屋から出て行こうとする。 霧江「こら、待ちなさい!」 ユリア、ベロを出し、 ユリア「ベー! だ」 と、目にも止まらぬ早さで出て行く。 霧江「全くあの子はっ……!」 と、追いかける。 エーデル「はぁ……。あいつにも困ったもん だ」 と、椅子に深く座り、天井を見上げる。 ○ 月(アビス・ルナ)・エレベーター内 T「月(アビス・ルナ)・エレベーター」 人が千人は収容されるぐらいの大きさが あるエレベーター。 中央付近に、リーザとカミラ。 リーザは白色のワンピースを着ている。 靴はスニーカー。 背中にいつもの大剣を背負っている。 カミラは青色のジーパン。上はミリタリ ー風のTシャツ。 荷物などはふたりとも持っていない。 エレベーターは下に動いている状態。 リーザ「カミラはケントたちと遊んであげる んだよね?」 カミラ「そのつもり。たまにはあいつらと遊 んであげないとね。うるさくって仕方がな い」 リーザ、軽く笑う。 アナウンス「第4層、第1居住層に間もなく 到着します」 カミラ「リーザは古書店でしょ?」 リーザ「そう。そのあとは家でゆっくり本を 読むつもり」 ガゴンと響く音。 アナウンス「第4層、第1居住層に到着しま した」 エレベーターの大きな扉が開かれていく。 扉の向こうは人が大勢いて、賑わってい る様子。 ガゴンと音をたて、扉が完全に開かれる。 カミラ、扉のほうに進みながら、リーザ に振り返り、軽く手を上げ、 カミラ「じゃあ、お先に。また明日ね」 リーザ「(軽く手を上げ)また明日」 扉が音をたて、閉まる。さらに降りてい くエレベーター。 アナウンス「第5層、第2居住層に間もなく 到着します」 ガゴンと響く音。 アナウンス「第5層、第2居住層に到着しま した」 扉が開かれていく。 リーザ、扉から出て行く。 ○ 同・第5層・松井古書店・前 古風な木造の家。木造の看板が屋根にか かっている。 看板には『松井古書店』と書いてある。 リーザ、引き戸を開け、その家の中に入 っていく。 ○ 同・同・同・店内 店内は暗めの照明。 本棚にたくさんの本が詰められている。 きれいなものから黄ばんだものまで様々。 割と雑に本は詰められており、縦置きや 横置きになってものも。 本棚以外の場所にも本は平積みされてい る。 並ぶ本棚の向こう側、奥には松井 源三 郎(72)が本を読みながら、座っている。 老眼鏡をかけている。 リーザ、源三郎を気にせず、本棚の本を 物色している。 ピンク色の装丁がされた絵本を見つけ、 手に取る。ほこりを払いながら、 リーザ「ほこり臭い」 源三郎「(本を読みながら)文句があるなら、 買うな」 リーザ「(絵本を持ち、源三郎に向かって歩 きながら)貴重なお客様なのに?」 源三郎、黙る。 リーザ、源三郎の前に。ワンピースのポ ケットから茶封筒を取り出し、その中か ら五百円玉ほどの大きさの硬貨を、源三 郎に見せる。 リーザ「これでいい?」 源三郎、本を読むのをやめ、チラッとリ ーザと硬貨と絵本を一瞥。 源三郎「ふん」 と、本を読むのを再開。手を差し出す。 そこに硬貨を乗せるリーザ。 リーザ「じゃ、また来る」 と、手を軽く振りながら、店から出て行 く。 ○ 同・同・街路 雑多な街並み。建物は無機質な物が並ん でいる。 バザーが開かれているが、建物とは対照 的に、簡素なパラソルなどを立てた露天 が並んでいる。露天商の声がうるさい。 その間を歩いているリーザ。チラチラと 露天を見ているが、買う気はなさそう。 ○ 同・同・リーザの家・前 無機質な白い建物。他にも建物がポツリ と建っている。似たような構造。 虹彩認証を済ませ、チラッと背後を一瞥 し、開かれたドアから入っていくリーザ。 ○ 同・同・リーザの部屋 長方形の部屋。壁や天井の色は白い。ベ ッドが置いてある。 そのベッドの周り、壁側には天井まで届 く本棚。たくさんの本がきれいに並べら れている。種類は絵本や文学小説、児童 小説が多い。 リーザ、ベッドのそばまで歩き、大剣を 下ろす。 買った絵本をベッドそばの机の上に置く。 リーザ「ふぅ……」 と、着ていたワンピースをベッドの上に 脱ぎ捨てる。赤黒いボディーが現われる。 大剣を背負い、 リーザ「はぁ……めんどくさい……」 と、部屋から出て行く。 ○ 同・同・街路 歩いているリーザ。だんだんと人混みが 少なくなっていく。 ○ 同・同・草原 歩いているリーザ。急に立ち止まり、 リーザ「いつまで隠れているつもり?」 ユリアの声「ぶー、またバレちゃったぁ。今 日は調子わるいなー」 リーザ、声のする方向へ振り返る。そこ には1本の木。 その木からひょっこりと姿を現すユリア。 ユリア「お姉さん、いつから気づいてたのー ?」 リーザ「古書店、本屋のあたりから」 ユリア「おー! お姉さん、やっぱりそこそ こ強いねー」 と、笑顔で拍手をする。 ユリア「でもほんとにそこそこだねー」 怪しがるリーザ。 ユリア、ニヤッと笑い、 ユリア「正解は最初から。つまり基地を出て からでしたー!」 一気にリーザとの間合いを詰めるユリア。 ほとんど認識できないスピード。 ガギーンと響く金属音。 ユリアがリーザに振り下ろしたハンマー (ヘッドの反対側にブースト機構のよう なものが見える)を、なんとか大剣で受 け止めているリーザ。 リーザ「くっ……」 ユリア「あは! お姉さん、やっるねー!」 と、リーザとの間合いを一気に放す。 ユリア「(笑顔で)久しぶりに本気を出せそ う♪」             第3話(終)         
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