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○ 大型戦艦アスモデウス・通路
リーザが下を向いて歩いている。足取り
が重そうで、どこか気落ちした様子。
カミラの声「リーザー!」
と、リーザの横へ。リーザ、無反応。
カミラ、リーザの顔をのぞき込む。
リーザが驚く。
リーザ「カミラ」
カミラ「やっと気づいたの?」
リーザ「うん」
カミラ、リーザの肩を寄せる。カミラと
リーザの顔が近づく。
カミラ「聞いたわよぉ。ナンバースリーと闘
ったんだって?」
リーザ「(驚きの表情で)なんで知っている
の!?」
カミラ「えーと、なんか小さい女の子が教え
てくれたわよ。あの子、かわいかったなー」
リーザ「小さい女の子? ――どんな子だっ
た、ねぇ、どんな子、どんな子」
と、カミラに詰め寄る。
カミラ「えっとね。銀髪で、ツインテールの
子」
リーザ、驚く。
リーザ「それでなんて言ってたの……?」
カミラ「リーザってお姉さんがナンバースリ
ーとやり合ったらしいよーとかなんとか」
ユリアが、通路にいるサイボーグたち一
人一人に言いふらしているカット。
カミラ「本人に聞いたら、本当かどうか分か
るかなーって聞いてみたんだけど」
カミラ、リーザを見る。
リーザ、目を逸らす。
カミラ「あっ……ほんとなんだ……」
○ 同・イレーネの部屋
模範的なインテリア。本棚があり、ベッ
ドがある。
ベッドの上、へりにはエマが座っている。
部屋の中央には中華料理店にあるような
回転テーブル。ただサイズは小さめ。
そこだけ部屋の雰囲気と比べて違和感が
ある。
回転テーブルの中央には5段のケーキス
タンド。
そこにスコーンが隙間なく並べられてい
る。
テーブルの周りには、リーザ、カミラ、
イレーネ、クロエ、サラが座っている。
おのおのの前にはおしゃれなティーカッ
プ。中身は紅茶。
カミラ「(大声で)えー!! あの子がナンバ
ースリーなの!?」
と、驚きのあまり立ち上がる。
リーザ「(うなずきながら)うん」
イレーネ「(カミラを一瞥し)行儀が悪いで
すよ、カミラさん」
カミラ「あっ、ごめんごめん」
と、しずしずと椅子に座り直す。
カミラ「いやー、でも驚くでしょ。あんな小
さな子がナンバースリーなんて」
イレーネ、紅茶をすすり。
イレーネ「うわさには聞いたことがありまし
たけどね。とてつもなく強い子がいるって」
サラ「ああ、ボクも聞いたことがあるよ。ひ
とりで何百体ものロボットを倒したって話」
クロエ「へー、すごいねー!」
カミラ「そんなに強かったの?」
リーザ「うん。とっても」
カミラ、驚き。
カミラ「素直に認めるなんて珍しい」
リーザ「それぐらい力の差があったってこと
だよ」
と、スタンドにあるスコーンを手に取り、
一口かじる。
リーザ「相変わらずおいしい」
イレーネ「(少し嬉しそうに)当たり前です。
素材からこだわってますから。そもそもス
コーンというのは――」
と、リーザにスコーンの歴史を饒舌に話
し始める。かなりの熱が入っている。
リーザ、困惑している。また始まったよ
という感じである。
リーザ、カミラを見る。アイコンタクト
で助けを請う。
カミラ、ため息をつき。
カミラ「はいはい。イレーネ、終わり終わり」
と、イレーネを手で静止する。
イレーネ、ハッと気づき。
イレーネ「私としたことが。失礼しました」
と、軽く頭を下げる。
カミラ「まあ、いつものことだけどね」
リーザたち全員、うんうんとうなずく。
クロエ「イレーネちゃんのそういうとこ好き
ー。個性が強い? 個性的?」
カミラ「まあ、いいことだと思うわよ。みん
ながみんな、同じじゃつまらないじゃない」
イレーネ、少し照れている様子。だが表
情には出さない。
リーザ「イレーネは昨日も食べ歩き?」
イレーネ「私は――」
○ 月(アビス・ルナ)・第6層・街路・回
想
車道と歩道が分かれている街路。歩道側
には多種多様な店が並んでいる。
人通りも多い。
○ 同・同・洋菓子店・回想
イレーネ、ケーキを頬張っている。テー
ブルの上には20~30個ぐらいのケーキが
並んでいる。
○ 大型戦艦アスモデウス・イレーネの部屋
イレーネ「ケーキをたくさん食べて――」
○ 月(アビス・ルナ)・第6層・街路・回
想
ファンシーな外装が施された店を見つけ
るイレーネ。
店に近づく。
窓側には大量のクマのぬいぐるみが、丁
寧に陳列されている。
目を輝かせるイレーネ。
○ 大型戦艦アスモデウス・イレーネの部屋
イレーネ、笑顔になりそうになるのを我
慢して。何事もなかったように、
イレーネ「それだけね」
リーザ「ケーキ、おいしかった?」
イレーネ「私は味の確かな店にしか行かない。
今度連れて行ってあげるわ」
クロエ「リーザちゃん、私もー!!」
イレーネ「はいはい。分かっているわよ」
クロエ「でね、クロエは昨日はねー」
イレーネ「いつもの映画でしょ」
クロエ「なんで知ってるの!?
イレーネ「前の日に言ってたじゃない」
クロエ「そうだっけ? うーん、でも――」
と、リーザに向き。目を輝かせながら、
クロエ「しゃべってもいいよね!?」
リーザ、少し圧倒されている様子。
リーザ「う、うん……どうぞ……」
クロエ「クロエはねー」
○ 月(アビス・ルナ)・第6層・街路・回
想
街路を歩いているクロエ。
クロエ、立ち止まり。見上げる。
そこには少し古びた建物。
建物の上部に色あせた看板が配置されて
いる。看板には男女が向かいあっている
絵。
クロエ、その建物の中に入っていく。
○ 同・同・映画館・回想
映画館は現在と同じ内部構造。椅子が並
び、巨大なスクリーンが設置されている。
照明が落とされた中で、映画を静かに楽
しんでいるクロエ。
片手にはポップコーン(大カップ)。
ほとんどの座席が空いている。クロエの
他に数十人ぐらいの観客しかいない。
○ 大型戦艦アスモデウス・イレーネの部屋
クロエ「と、いうわけー」
イレーネ「ほら同じじゃない」
クロエ「イレーネちゃんには言われたくない
でーす」
イレーネ「そもそも映画に行かなくてもいい
じゃない」
クロエ「それは違うっていつも言ってる!」
カミラ「まあまあ。でも確かに映画を見るこ
とはあるけど、わざわざ行くことはないわ
ね。これで見れるし」
と、自分の目を指さす。
サラ「ボクもそうだね」
エマ「私も……」
クロエ「(残念そうに)えぇ……」
と、リーザを見て。
クロエ「リーザは?」
リーザ「(口ごもりがちに)行ったことない
……」
クロエ「私だけなの!?」
リーザ一同「うん」
クロエ「もうみんな分かってない!」
と、椅子から立ち上がり、
クロエ「自分の目で見ただけじゃ、感動を共
有できないよ! みんなで同じものを同時
に見るのがいいのに!」
カミラ「分かる気もするんだけど……」
クロエ「けど?」
カミラ「めんどくさい」
クロエ「だー! もう今度の休日はみんなで
映画を見に行く! これ決定だから!」
リーザ「行ってみてもいいかな……」
イレーネ「私はパス」
サラ「面白そうだね」
エマ「サラお姉ちゃんが行くなら、私も行く
……」
クロエ、イレーネを向き。
クロエ「うん、イレーネちゃんは分かってた」
と、カミラを向き。
クロエ「カミラちゃんは?」
カミラ、うつむき、考えるように。
カミラ「うーん……。チビたちの世話がなけ
れば行ってもいいんだけど」
リーザ「やっぱり昨日もメルたちと遊んでた
の?」
カミラ「そうねー。帰るなり、おねーちゃん
! だもの。あっ、カイルがリーザと遊び
たがっていたわよ」
リーザ、露骨に嫌そうな表情に。
カミラ「そこまで顔に出さなくても……」
リーザ「だって……あいつ、私がサイボーグ
で丈夫ってだけで、めちゃくちゃするんだ
もの」
カミラ「ああ……わかる」
リーザ「本を読んでたら、その先の内容を言
うし」
カミラ「ああ見えて、あいつ本は結構読んで
るしね」
リーザ「まあ、でも、カイルと本の話をする
のは楽しいかな」
イレーネ・クロエ・サラ、カミラとリー
ザを見て。
イレーネ「カミラさん、兄弟がいるの?」
カミラ「言ってなかったかしら?」
クロエ「初耳ー」
サラ「ボクも初めて聞いたな。(エマを見な
がら)ねえ、エマ」
エマ、コクンと頷く。
カミラ「弟と妹ね。弟がカイルって名前で、
妹がメル」
クロエ「会ってみたいなー」
カミラ「いいけど、リーザみたいにからかわ
れるわよ」
リーザ、乾いた笑い。
サラ「はは。ボクも会いたいな。何歳なんだ
い?」
カミラ「カイルが6歳で、メルが5歳だった
かしらね」
サラ「かわいい時だね」
と、エマを見ながら。
サラ「エマもそうだった」
エマ、サラを見る。
サラ「今もかわいいけどね」
エマ、うつむく。
サラ「フフ。照れてる。照れてる」
リーザ「ほんとあんたたちって仲いいよね」
サラ「まあね」
と、遠い目になる。
リーザ、首を傾げる。
サラ、それに気づき。
サラ「ああ、何でもないよ。ちょっと昔のこ
とを思い出しただけ」
リーザ「そう……。まあ、いろいろあるもん
ね」
サラ「フフ。そういうこと」
リーザたち一同、少し黙る。
サラ「そういえば昨日ボクたちが何をしてた
のかは聞かないのかい? 順番としては次
はボクたちだけど」
カミラ「別にそういう会というわけではない
んだけどね……。まあ、聞いておこうかし
ら?」
イレーネ「(紅茶をすすり)聞きましょう。
聞かないのも何か気持ち悪い感じがします
し」
クロエ「聞く聞くー!」
リーザ、頷く。
サラ「私とエマはね――」
○ 月(アビス・ルナ)・第4層・美術館・
回想
白色が基調で、清潔感が漂う内装。
バロック絵画が壁に等間隔に飾られてい
る。
鑑賞している人はまばらだ。
サラが一枚のバロック絵画をじっと食い
入るように見ている。
サラの横にはエマがいる。
エマは別に興味がなさそうな感じで、何
か編み物をしている。
サラ「……。うん、実にいい絵だ」
と、ニッコリとほほ笑む。
○ 大型戦艦アスモデウス・イレーネの部屋
サラ「っていう感じだね。ねぇ、エマ」
コクンと頷くエマ。
カミラ「へぇー、そんな展示やってたんだ。
どこでやってたのよ?」
サラ「4層だよ」
カミラ「同じ層なのに全然知らないわー」
サラ「そんなに宣伝とかしていなかったんじ
ゃないかな。人もそんなにいなかったしね。
そもそも、昔の絵画に興味がある人なんて
そんなにいないさ」
クロエ「うーん、クロエも絵はあんまりなー。
映画も絵と言えば絵だけど」
イレーネ「私もないですね」
カミラ「聞いといてあれだけど、私も……。
リーザは?」
リーザ「(少し考える様子)どうかな……。
絵本の絵は好きだけど。また違うだろうし」
サラ「そうだね。まあ、美術館はひとりでゆ
っくり見るものだから、みんなで行くよう
な所でもないかな?」
カミラ「それもそうよね」
リーザ、まだ何か考えている様子。
カミラ、その様子に気づき。
カミラ「どうしたの?」
リーザ「うーん。何か引っかかるんだけど、
それが何か分からない……? みたいな?」
カミラ「その説明自体がよく分からないわよ」
リーザ「だよね……。(何かに気づいたよう
に)あっ!」
カミラ「分かった?」
リーザ「(焦る表情で)思い出した……。直
してもらった剣を取りに行かないといけな
いんだった……」
イレーネ「(紅茶をすすり)それはご愁傷さ
まです」
クロエ「大変だねー! リーザ!」
サラ「フフ。まあ、覚悟を決めて行くしかな
いね」
エマ「(小さい声で)が、頑張って……」
カミラ「骨は拾ってあげる。ああ、骨はない
か」
リーザ、椅子から立ち上がり、大きなた
め息。
リーザ「行ってくるよ……」
カミラ・クロエ「いってらっしゃいー」
イレーネ「(冷めた感じで)いってらっしゃ
い」
サラ「(余裕な感じで)いってらっしゃい」
エマ「(小さい声で)いって……らっ……し
ゃい……」
とぼとぼ部屋から出て行くリーザ。
○ 同・司令官室
エーデル、椅子に座り、ホットコーヒー
(大きめのコーヒーカップ)を飲みなが
ら、机の上の紙書類をチェックしている。
何かに気づき。
エーデル「怜か」
霧江、自動扉から入ってくる。
霧江「はぁ……。とんだ休日でしたよ」
エーデル、椅子から立ち上がり、
エーデル「コーヒーでも飲むか?」
霧江「ああ、すみません。いただきます」
と、部屋の隅にある革張りのソファに座
る。ソファは向かい合わせにあり、間に
は高級な木のテーブル。
エーデル、コーヒーメーカー(現在の物
とほぼ同じ)からコーヒーを入れる。エ
ーデルと自分のものをふたつ。大きめの
コーヒーカップに。エーデルがさっき使
っていたものとは別。
エーデル、コーヒーカップを両手にひと
つずつ持ち、ソファに近寄る。
コーヒーカップのひとつを霧江の前に置
く。もうひとつを自分が座る前に置きな
がら、ソファに座る。
霧江「ありがとうございます」
エーデル「なに、昨日は苦労を掛けたからな」
霧江、コーヒーを一口飲み、
霧江「ええ、本当に苦労しました」
エーデル「まあ彼女たちも反省しているだろ
う」
霧江「リーザ・パーシヴァルは明らかに被害
者ですけどね」
エーデル「(苦笑)違いない。今日はユーリ
カは?」
霧江「見ていないですね。まあ、昨日の今日
でさすがに問題は起こさないでしょう」
エーデル「そうだといいんだがな」
霧江「そうでないと困ります」
エーデル、苦笑。
エーデル「結局、昨日はライブには間に合っ
たのか?」
霧江「ええ、なんとか」
と、コーヒーを一口。
○ 月(アビス・ルナ)・第7層・ライブハ
ウス前・夜・回想
電飾で彩られた街並み。赤や黄色、青色
などのネオンサインがそこら中に飾られ
ている。
ライブハウスの看板もネオンサインだ。
『Arcadia』と書かれている。
○ 同・同・ライブハウス内・回想
ステージの上に5人の人間。それぞれボ
ーカリスト、ギタリスト、ベーシスト、
キーボーディスト、ドラマー。流れてい
る音楽はヘヴィメタル。
観客席は立ち見で、人がごった返してい
る。ほぼ満員。観客たちはノリノリで、
歌に合わせて叫んでいる様子。腕を振っ
たりしている人も。
その観客たちの最前列。腕を振って叫ん
でいる霧江。かなり熱狂している。
○ 大型戦艦アスモデウス・司令官室
霧江「有意義な時を過ごせました」
満足に満ちた表情。
エーデル「それはよかった」
霧江「いつも思いますね」
と、自分の頭を指さし、
霧江「脳が自分のものでよかったと。そうで
ないと音楽を楽しむということもできなか
ったでしょうし」
エーデル「だろうな」
霧江「……失礼かもしれませんが」
エーデル「なんだ?」
霧江「司令官は趣味とかは……」
エーデル、苦笑し、コーヒーに口をつけ
る。
エーデル「これは自慢でもなんでもないんだ
が――なんでもできてしまう故な――」
霧江「楽しみを知る前に終えてしまうと……
?」
エーデル「まあ、そんな感じだ」
霧江、顎に手を添え、考える様子。
霧江「ゲームはどうでしょうか?」
エーデル「ゲームね……。それはデジタルの
か?」
霧江「ええ、そうです。いわゆるコンピュー
タゲームですね」
エーデル「ふむ……。確かに試したことはな
いが」
霧江「私の持っている物をいくつか貸しまし
ょう。とびきり難易度の高いものを」
エーデル「ああ、それは楽しみだ」
と、コーヒーをすする。
○ 同・武器開発室
壁の左右に槍や大剣、ダガー、盾などの
武具がかかっている。
部屋のあちこちに台を模した機械があり、
その周囲には男女の人間がいる。みんな
白衣を着ている。
部屋の中央、台の上にリーザの大剣が浮
かんでいる。浮かんでいると言っても何
もない空間に浮かんでいるのではなく、
機械のアームのようなものに支えられて
いる感じ。
大剣は破壊された状態から完全に元の状
態に戻っている。
その台の前にはマイケル・アームストロ
ング(45)が、腕を組んで仁王立ちして
いる。身長は186cmもあり、威圧感があ
る。男性であるが、女性の格好をしてい
る。女装家。
マイケルの目線の先にはリーザが立って
いる。どこか落ち着かない様子 で、キ
ョロキョロしている。
マイケル「ねぇ、リーザちゃん」
リーザ、体をビクッと震わせ、マイケル
を見る。
リーザ「は、はい……」
マイケル、リーザに一歩、二歩と近づき、
リーザの目の前に。
身長差が約30㎝もあるため、マイケルは
リーザの前で屈む。
リーザの目の前にはマイケルの顔。小顔
のリーザと比べると、かなり大きな顔な
ので圧迫感がある。
マイケル「あの大剣を直すのも大変なのよぉ
?」
リーザ「は……はい……」
マイケル「前も同じようなことがあった気が
するんだけどねぇ?」
リーザ「は……はい……。でも前は……」
マイケル「前は?」
リーザ「……折れた……」
マイケル「折れたぁ?」
リーザ「いや、折りました……」
マイケル「そうよねぇ。で、今回は?」
リーザ「粉砕しました……」
マイケル「正解ねぇ。で、どっちが直すのに
大変か分かるぅ?」
リーザ「砕けた今回のほうです……」
マイケル「それも正解よぉ。で、私はあなた
たちが使っている武器を自分の子供たちみ
たいに思っていることも知っているわよね
ぇ?」
リーザ「は、はい……」
マイケル「そうよねぇ。私が作ってるんだも
んねぇ。ほんとどれもかわいい子供たちよ」
と、さらにリーザに顔を近づける。
マイケル「私は今、子供を失ったのと同じ気
持ちなのよねぇ。今回はなんとか直せたか
ら、良かったけどねぇ」
リーザ「は……はい……」
マイケル、さらにリーザに顔を近づける。
思わず後ずさるリーザ。
リーザ、サイボーグのため冷や汗などは
かかないが、かいているように見える。
マイケル、リーザの耳元で。
マイケル「(男の声。小声、低い声)次はな
いと思えよ」
ぶるぶると体を震わせ、青ざめるリーザ。
マイケル、立ち上がり。
マイケル「返事はぁ?」
リーザ、直立不動で。
リーザ「(小声で)は、はい……」
マイケル「ん? 聞こえないわねぇ」
リーザ「(大声で)は、はい!」
マイケル「(笑顔で)ん、よろしい」
と、リーザの大剣が浮かんでいる台へ。
大剣を軽々と片手で持ち、リーザの元へ。
リーザ(M)「なんで持てるの……」
マイケル、大剣をリーザに渡す。
リーザ、受け取る。大剣が折りたたまれ
ていき、背中に背負えるサイズに。
マイケル「大切に使ってねぇ」
リーザ「はい!」
マイケル「もう行ってもいいわよぉ」
リーザ、一礼し。
リーザ「失礼します!」
と、部屋の出入り口に向かう。
マイケル、その背中に呼びかけるように。
マイケル「直すのは勘弁だけど、いつでも遊
びに来てよねぇ」
リーザ、出入り口の前でも一礼。部屋か
ら出て行く。
マイケル「はぁ……。それにしてもユーリカ
ちゃんにも困ったものねぇ……」
○ 同・イレーネの部屋
カミラ・サラ・エマ、部屋から出て行く。
カミラ「お茶ありがとうねー。おいしかった
わ」
サラ「今度はボクたちの部屋に招待するよ」
エマ、コクンと頷く。
イレーネ「ええ、楽しみにしておくわ」
カミラ・サラ、手を軽く振り、歩いて行
く。
エマ、サラの後ろについて行く。振り返
り、イレーネにペコリと一礼。
イレーネ、手を振る。
エマ、サラの跡を追う。
イレーネ、部屋に戻り、
イレーネ「ふぅ――さてと」
と、テーブルの上に置かれているティー
カップや皿を見て。
イレーネ「片付けますか」
と、テキパキと片付けていく。皿は重ね
て。カップは集めて。そうとう手慣れて
いる様子。
皿やカップをトレーに乗せ、部屋から出
て行く。
○ 同・通路
トレーを両手に持ち、歩いているイレー
ネ。
○ 同・食堂
食堂に入って来るイレーネ。調理室に向
かう。
○ 同・調理室
イレーネ、調理室に入り、キョロキョロ
と見回す。誰も見当たらない。
食器類が機械で自動的に洗われている。
皿がベルトコンベアのようなもので運ば
れ、大型の機械の中に吸い込まれていく。
イレーネ、部屋の端にある洗い場に行き、
トレーを置く。
イレーネ(M)「自分でやる方が確実よね」
と、置いてあったスポンジを取る。液体
洗剤をスポンジにつけ、皿やコップを洗
い始める。
○ 同・イレーネの部屋
イレーネ、皿やコップが載ったトレーを
両手に持ちながら入って来る。
皿やコップを引き出しや棚の中に片付け
ていく。
スッキリと片付いた部屋。
満足そうな表情を浮かべる。
イレーネ「さてと……」
と、部屋の隅に置いてあるクローゼット
の前へ。
クローゼットには指紋認証式の鍵がつい
ている。
イレーネ、人さし指を指紋認証式の鍵に
触れさせる。ピッと音が鳴り、クローゼ
ットの扉が開かれていく。
クローゼットの中身は大量のぬいぐるみ。
大小さまざまであり、形は熊を模したも
の、ペンギンを模したものなどさまざま。
服を着ているものも。
ぬいぐるみは雑に置かれているのではな
く、きちんと整理されて置かれている。
イレーネ、そのぬいぐるみたちを見て、
恍惚の表情を浮かべている。
イレーネ、一際大きな熊のぬいぐるみを
両手で抱きかかえる。
イレーネ「はぁ、アンソワーヌちゃん……」
ユリアの声「へぇー、その子アンソワーヌち
ゃんって言うんだ」
イレーネ「わあああぁぁぁぁ!」
と、いきなりの声に驚き、背後を振り返
る。
ユリアが立っている。
イレーネ、アンソワーヌを抱いたまま口
をパクパクさせている。
ユリア「かわいいねー!」
イレーネ、深呼吸し、心を落ち着かせる。
アントワーヌを背後に隠し。
イレーネ「――いつからそこに?」
ユリア、首をかしげながら、
ユリア「うーんとねー。おねーさんが皿を持
って入って来るところからかなー」
イレーネ、冷静に努めようとするが、内
心は焦っている。
イレーネ(M)「全く気配を感じなかった…
…」
ユリア、勢いよくイレーネの前にジャン
プ。
イレーネ、少し後ずさる。
ユリア「ねぇ、アンソワーヌちゃんを見せて、
見せて!」
イレーネ、呆気にとられ、
イレーネ「えっ……?」
ユリア「見・せ・てー!」
イレーネ「えっ、ええ……」
と、アンソワーヌをユリアの目の前に差
し出す。
目を輝かせるユリア。
ユリア「かわいいー!! ねぇ、触ってもいい
!?」
イレーネ「どっ、どうぞ……」
ユリア「わーい!」
と笑顔になり、アンソワーヌの頭をなで
る。
ユリア「かわいいねー。よしよし」
イレーネ、アンソワーヌの頭をなでてい
るユリアを静かに見ている。
ユリア「(アンソワーヌの頭をなでながら)
お姉さんはかわいいものが好きなんだよね
ー?」
イレーネ「ま、まあね……」
ユリア「私と同じだね!」
イレーネ「……好きなの?」
ユリア、満面の笑みで。
ユリア「大好きだよ!!」
イレーネ、うらやむような表情
(好きなものを素直に好きと言えない気
持ちから)。
イレーネ「そう……」
ユリア、首を傾げる。
ユリア「どうしたの?」
イレーネ「ううん、なんでもない」
ユリア「変なのー」
イレーネ「この子、抱いてみる?」
ユリア「いいのー?」
イレーネ「(微笑し)どうぞ」
と、アンソワーヌをユリアに渡す。
ユリア、満面の笑みをしながら受け取る。
ユリア「わぁ!!」
と、アンソワーヌを抱き、
ユリア「かわいい、かわいい」
と、アンソワーヌの顔に頬をスリスリ。
本当に幸せそうな様子。
イレーネ、そんなユリアを見ながら、自
分でも気づかないうちに笑顔になってい
る。
ユリア「あっ、そういえば」
と、頬ずりをやめ、アンソワーヌを抱い
たまま。
イレーネ「なに?」
ユリア「リーザお姉さんは?」
イレーネ、いきなりの質問に少し戸惑い、
イレーネ「……一応聞くけど」
ユリア「なぁにー?」
イレーネ「あなた、ユリア・レオニート・ヤ
コブレフですよね……?」
ユリア「そうだよー。でも、ユーリカって呼
んで欲しいかなー」
イレーネ「――じゃあ、ユーリカさん」
ユリア「そうそう」
イレーネ「あなたリーザさんの大剣を破壊し
たでしょう?」
ユリア「(笑顔のまま)うん、したしたー」
イレーネ、ため息をつき。
イレーネ「じゃあ、行くところはひとつしか
ないでしょう」
ユリア「(目をつぶり、考えるように)うー
んとねー。(閃いたように)あー、わかっ
たー! マイケルんとこだー!!」
イレーネ「マリアさんと言わないと怒られま
すよ」
ユリア「あっ、そうだねー」
イレーネ「ユーリカさん、あなたは呼ばれて
いなかったのかしら?」
ユリア「うーん、呼ばれてたと思うけどー、
めんどくさいから無視したー」
イレーネ、さらに深いため息。
ユリア、それを気にせず、笑顔でアンソ
ワーヌに頬ずりをする。
○ 大型戦艦アスモデウス・元老院の間
スポットライトを浴びているエーデル。
ひざまずいている。
エーデルの前方、スポットライトがポン
ポンポンといった感じに点灯していく。
その数は6つ。人影のシルエット。その
シルエットが解かれる。
6人の老若男女が宙に浮いた椅子のよう
な物に座っている。みんな黒いマントを
羽織っている。
その男女は緩やかなカーブを描くよう(
ゆるいU字型)に並んでいる。
真ん中に当たる場所にはケテル(見た目
は80歳代。男。毛髪はない)。
その隣にはコクナーン(見た目は80歳代。
女。白髪の長髪)。
ケテルの隣にはマルス(見た目は30歳代。
男。黒髪のショートカット)。
コクナーンの隣にはフィーア(見た目は
30歳代。女。糸目。ウェーブのかかった
茶色のロングヘアー)。
マルスの隣にはゲブラー(見た目は20歳
代。金髪のショートカット)、片肘をつ
いている。
フィーアの隣にはユーニ(見た目は20歳
代。整った顔立ち。ピンク色のロングヘ
アー)。
ケテル「顔を上げよ」
エーデル「はい」
と、顔を上げ、ケテルを見上げる。
ケテル「して結果は」
エーデル「やはりリーザ・パーシヴァルは人
型の機械に対して抵抗があるようです」
ケテル「やはりあの事件が原因か?」
エーデル「確証はないですが、恐らく。心的
外傷を負っているかと」
フィーア「あれだけのことが起これば無理も
ないことでしょう。皮肉なことですが」
マルス「不安が残る要素ではありますね」
ケテル「ふむ……。まあ、早急に対応すべき
ことではないことを願うか……。いずれ解
決しなければならない問題だろうが」
コクナーン「そうですね」
ゲブラー「へっ(吐き捨てるように)、めん
どくせぇな」
ユーニ「まあまあ、そう言わずに」
ケテル「敵が人型である限りは避けられん問
題だ」
エーデル、手を上げる。
ケテル「申してみろ」
エーデル「そのことなのですが、本当に彼ら
はいるのでしょうか?」
ケテル「いるとは?」
エーデル「いや、これだけ探しても見つから
ないというのは……」
ケテル「心音響(ここねひびき)の映像を見
ただろう?」
エーデル「はい」
ケテル「なら、あれに映っていた男はどう説
明をつける?」
エーデル「それは……」
ケテル「レジスタンスの人間というわけでも
あるまい。あれは人間そっくりに作られた
ロボットだ。かなり精巧だが、動きに若干
の違和感がある」
コクナーン「あれぐらいなら、ノアはいとも
簡単に製作するでしょう」
ケテル「うむ」
エーデル「ノア――」
ケテル「ノアを覚えているのは我らだけだろ
うが――彼は確実にいる」
ケテル以外の元老院、うなずく。
エーデル「――分かりました。捜索を続けま
す。近々、地球に降下を」
ケテル「了解した」
コクナーン「では、今日はここまでにしまし
ょうか」
ユーニ「(背筋と腕を伸ばしながら)うーん、
疲れたー」
ケテル「またこちらから連絡する」
エーデル「承りました」
ケテル一同「地球奪還のために」
エーデル「地球奪還のために」
スポットライトが消え、真っ暗になる。
(第5話 終)
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