第18話 「緊急事態」

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第18話 「緊急事態」

○ 地球・日本・軍艦島 T「リーザとマレイアの決着から約15分前」 シェルターが落ちて来る。地面に滑りな がら着地。 ドアがパカッと開き、中から出て来たの は――エーデル。 エーデル「確かにこの揺れはひどいな……。 アニードあたりに報告しておくか。さてと」 と、周りを見回し、 エーデル「都合良くいたりしないか」 エーデル、歩き出す。 女性オペレーターの声「失礼します。エーデ ル総司令官、前方に反応があります」 エーデル「ああ、そう。(口マネで)ピピー、 ガガ。通信状態が悪いみたいだ。耳障りだ し、切るよ」 女性オペレーターの声「えっ、いやそんなは ずは――」 エーデル、通信を切る。 エーデル「これでよしっと。おっと」 エーデルの前方、背中を見せて正座をし ているスラシール。大太刀は横に置いて いる。 エーデル「みーっけ」 ○ 同・同・同・開けた地 目をつぶって、正座中のスラシール。 頭に向かって、エーデルの刀が振り下ろ される。 宙を切るエーデルの刀。 エーデル「へえ」 スラシールはエーデルのはるか上に。大 太刀を振り下ろす。 エーデル、難なく避ける。 大太刀が地面に当たり、衝撃で地面がく ぼみ、周りにはひびが入っていく。 エーデル「先手必勝とはいかないか」 スラシール、顔を上げ、 スラシール「貴様には武士道精神というもの がないのか」 エーデル「ないな。生まれはドイツだし。あ あ、騎士道精神ならあるかもしれないけど な。私にはないけどな」 スラシール「何をしても勝てばいいと」 エーデル「そいうこと」 スラシール「はぁ。こんなやつが敵方の大将 とはな。見損なった」 エーデル「勝手に期待して、勝手に落胆され てもな。でもまあ――見損なうのは時期尚 早かもしれないな」 エーデル、文字通り蝶のように舞う。 スラシール「(面を食らい)なんだ、それは ……」 エーデル「(舞いながら)私の闘い方のひと つだよ」 スラシール「フン……」 スラシール(M)「だが、この動き――」 蝶のように舞っているエーデルを見なが ら、 スラシール(M)「動きが読めない」 エーデル、いきなり勢いをつけて、スラ シールを刀で突こうとする。 が、スラシール、難なく避ける。 エーデル「へえ」 スラシール(M)「避けられないことはない ……そして――」 スラシール、エーデルの舞をジッと見て。 エーデルの舞の着地の瞬間に注目して。 スラシール(M)「ずっと宙を飛んでいるこ とは物理的に無理に決まっている! そこ だ!」 スラシール、エーデルの着地の瞬間を狙 い、大太刀をなぎ払う。 スラシール(M)「やった――! ……いや、 手応えが――」 エーデルの声「君が切ったのは残像だよ」 スラシール「なっ!」 スラシール、振り返る。そこにいたのは 不敵な笑いを浮かべたエーデル。 エーデル「まあ、思ったよりは頑張ったかな ?」 エーデル、刀を軽く四、五回振る。飛び 散る赤いオイル。 スラシールの両手、両足がきれいに切断 され、頭と胴体だけがつながった状態に なり、地面に倒れる。 エーデル、スラシールの喉に刀の切っ先 を向ける。 スラシール「き、貴様……!」 エーデル「チェックメイトっていうやつかな ?」 スラシール「さきの動きは……人を――」 エーデル「おっと」 エーデル、スラシールの喉を掻っ切る。 スラシール、続きを話そうとするが、声 が出ない。 エーデル「声帯に当たる部分だけを切ってみ たけど、正解だったみたいだ」 エーデル、口元に手を当て、静かにのポ ーズ。 エーデル「そこから先は機密事項でね」 エーデル、刀を鞘に収め、背伸びをして。 エーデル「んーっ! 任務完了っと」 エーデル、右手を耳に当て、 エーデル「あー、こちらエーデル。通信が直 ったみたいだけど、聞こえるかい」 女性オペレーターの声「あ、隊長! 聞こえ ます! なんで通信が切れたんでしょう… …」 エーデル「さぁ? 何か通信妨害でもされて いたんじゃない」 女性オペレーターの声「そんな電波は確認で きませんでしたのですけどねえ……。視界 カメラの方もブラックアウトしてましたし ……」 エーデル「ああ、そう。まあ、故障じゃない ? 帰艦したら、アニードに見てもらうよ」 女性オペレーターの声「大事にしてください ね。で、状況は……」 エーデル、仰向けに倒れたスラシールを チラッと見ながら、 エーデル「終わったよ」 ○ 同・とある場所・玉座の間 T「数時間後」 玉座にゆったりと座っているノア。 周りには姿勢正しく立っているカイン・ アベル・マレイア・ペロメ。マレイアは 両腕がなく、カインは左腕がない。 マレイア、キョロキョロと周りを見て、 マレイア「リーヴとスラシールは――(ハッ として)まさか」 ノア「そう。彼、スラシールはさらわれた」 驚くカインたち。 カイン「彼ほど実力ある方がさらわれるなど ……もしかして相手は」 ノア「ERAの総司令官エーデルだよ。フフフ。 ここまで強くなっているとはね。なかなか やってくれるよ」 ペロメ「で……あの……スラシール様はどこ に……?」 ノア「彼らのことだから、解剖室とか研究室 とかじゃない?」 クスッと笑うノア。 ○ 大型戦艦アスモデウス・研究室 T「二日後」 緑色の液体で満たされたカプセルの中に、 頭と胴体だけがつながったスラシールが いる。目をつぶり、意識がない状態。 強化ガラスを隔てて、アニードがジロジ ロとスラシールを見ている。傍らには他 の研究員たちもおり、ディスプレイ端末 とにらめっこ中。 アニード「う~む」 自動ドアが開かれ、エーデルが入って来 る。 エーデル「どうだ。何か分かったか」 アニード「(スラシールを見たまま)いや、 それがのぉ。肝心なところはブラックボッ クスでなぁ」 エーデル「はぁ……。ノアの居場所が分かる かと思ったが、さすがにそんなに甘くはな いか」 アニード「はっきり分かることは、機体の構 成部分に未知の鉱物が使用されていること ぐらいじゃな」 エーデル「へぇ。前にマイケルが報告してい ものとは全然違うものか?」 アニード「違うな。そもそもあれは月で採掘 されたやつじゃろう? これはノア自身が 一から創った物か、地球の未発見鉱物か。 それにしても――」 アニード、スラシールを顔をジッと見て。 アニード「見た目は人間と変わらんのぉ。脳 の働きも忠実に再現されておる。ノアとい うヤツが恐ろしいわい」 エーデル「フフ。お前にも創れないか」 アニード「はっきし言って無理じゃな。サイ ボーグたちみたいに素体がないとな」 エーデル「技術力も向こうが上か」 アニード「じゃな」 エーデル「なぁ」 アニード「なんじゃ」 エーデル「そのブラックボックスを無理やり こじ開けることはできないのか?」 アニード「(振り返り)できないことはない が……いいのか? どうなっても知らんぞ」 エーデル「全責任は私が持つ」 アニード「ふむ。(スラシールを見て)じゃ あ、やってみようかのぉ」 ○ 同・リーザの寝室 リーザ、ベッドに座っている。 ○ 地球・ヴェネチア・屋根の上(回想) リーザが一歩を踏み出し、マレイアを剣 圧で切る。 ○ 大型戦艦アスモデウス・リーザの寝室 リーザ、両手を見ながら、グッと握りこ ぶしをつくり、 リーザ(M)「やれた。なんとかやれたんだ」 少し微笑み、 リーザ(M)「少しだけど、前には進めてる のかな」 ビービービーという警告音が艦内に流れ る。 リーザ「ん?」 艦内アナウンス「アスモデウス内研究室にて、 緊急事態レベルファイブを発令。隊員たち は自室にて待機。繰返す。アスモデウス内 研究室にて――」 リーザ「一体何が――」 ドア外から、 女性の声「リーザ・パーシヴァル」 リーザ、ドアの前まで行く。ドアがスラ イドで開く。 リーザ「あなたは――」 ○ 同・通路 女性研究員が逃げている。その研究員に 銀色の大きな針状の物が飛んでいく。 女性研究員「ひっ」 と、顔をかばおうとする。 キンキンキンと金属音が響く。 針状の物が、研究員の近くの地面に突き 刺さる。 エーデル、刀を下ろし、 エーデル「(チラッと研究員を見て)大丈夫 か」 女性研究員「は、はい」 エーデル「安心しろ。今、緊急アナウンスを 流している。何人か助けが来るはずだ。そ れまでは私のそばにいろ。その方が安全だ」 女性研究員、少し安堵の表情。 エーデル、耳に手を当て、 エーデル「トーマとスーは?」 女性オペレーター「ナンバーフォー、ナンバ ーファイブの両名は別任務で、艦内にはい ません」 エーデル「はぁ。いつも肝心な時にいないな。 あの双子は」 女性オペレーター「今、別の隊員たちがそち らに向かっています」 エーデル「ああ、了解した。研究員たちの脱 出を優先する」 女性オペレーター「承知いたしました」 エーデル、通信を切り、辺りを見回す。 銀色の液体が壁や床を覆い尽くそうとう ごめいている。 エーデル「ふぅ。まさかここまでとは」 アニード「わしも想定外じゃよ。ノアという やつが恐ろしいわい」 エーデル「こちら側がブラックボックスに手 をつけることも想定済みだったのだろうな」 アニード「やられたの」 エーデル「ああ」 アニード「他の研究者たちは?」 エーデル「別の部屋に避難させている。(チ ラッと背後にいる研究員を見て)彼女で最 後だ」 アニード「ほっほ。さすがの手際じゃの」 エーデル「よく言う。そっちも無傷のくせに」 アニード「わしぐらいになると、軌道から攻 撃を読むことなんて簡単じゃしの。瞬時に 計算すればいいだけじゃし。特に――」 アニード、数センチ横に避ける。 背後の壁に銀色の針状の物が突き刺さる。 アニード「こんな直線的な攻撃はの」 エーデル「まあ、今のところはこれだけだが ……」 アニード「じゃな」 エーデル「そんな簡単な攻撃だけで終わるわ けない」 エーデル、銀色の液体を見ながら、 エーデル「このちょうど、そんなもののため に使われるものじゃないはずだ」 アニード「確かにぉ。あまりにも汎用性に優 れすぎとる気がするのぉ……それこそまさ に戦艦自体を覆うような」 エーデル「! 狙いはそれか」 アニード「まだ分からんがのォ」 霧江、・リーザ・他のサイボーグ男二人 に女二人が、入ってくる。霧江、はエー デルの隣へ。他の者は後ろで待機。 エーデル「早かったな」 霧江「(ちらっと背後を見て)これだけの人 数しか集めることができませんでした。前 の戦闘での傷が癒えてない隊員が多すぎま す] エーデル「いや、上出来だ」 霧江「で、事態は」 エーデル「研究員たちはそこの一人を除いて、 避難完了済み」 霧江、隅にいる女研究員を一瞥し、周り の銀色の液体を見て。 霧江「一体なぜこんなことに」 エーデル「それは――」 ○ 同・研究室(回想) 必死にキーボードを叩いている男研究員。 大型ディスプレイにはスラシールの体を モニタリングしたものが映されている。 その近くにはメーターが表示されており、 30%近くを表している。徐々にメーター が上がっていく。 男研究員「ブラックボックスの解析度30%を 超えました」 エーデル「このまま何もなければいいが……」 アニード「鬼が出るか蛇が出るかじゃのぉ」 男研究員「ブラックボックスの解析度が50% を超えます」 カプセルの中にいるスラシールの体がビ クッと震える。 スラシール「ああっ……ガアァァァ!!」 スラシールの体が目に見えるぐらい痙攣 する。 エーデル「何が起こっている!」 男研究員「分かりません! (モニターを見 て)いや、そんなはずは……」 アニード、研究員が見ているモニターを 覗いて。 アニード「ほう。エーデル嬢よ」 エーデル「何だ」 アニード「伏せた方がいいぞ」 エーデル、間髪入れず伏せる。 スラシールの体が膨張し、破裂。中から 銀色の液体が飛び出し、四方八方に飛び 散る。 男研究員「アア!!」 モニターを見ていた男研究員が、銀色の 液体に呑み込まれる。 女研究員「いやぁぁ!」 近くにいた女研究員も呑み込まれる。 パニックに陥る研究員たち。 エーデル、立ち上がり、入り口近くにあ る緊急ボタンを叩く。アラートが鳴り響 き、赤色の照明が研究室を照らす。 エーデル「走れ! 私についてこい!」 ○ 同・通路 エーデル「――というわけだ」 霧江「犠牲になったのは二人だけですか」 エーデル「ああ。もしかしたら生きているか もしれないが」 霧江「で、この後は」 エーデル「また研究室に戻ろうと思う」 霧江「勝算はありますか」 エーデル、握っている刀を見ながら、 エーデル「一太刀当ててみないと分からんな」 霧江「私も同行します」 エーデル「ああ」 リーザ、そろそろと手を上げ、 霧江「リーザ・パーシヴァル。発言を許可し ます」 リーザ「私も行きたいです」 霧江、エーデルを見る。 エーデル「許可しよう」 リーザ、少し笑顔になり、キッと表情を 引き締める。 エーデル「他の者も来るか?」 他のサイボーグたち、敬礼をして。 他のサイボーグたち「お供します!」 エーデル、刀を扉に向けながら、 エーデル「目的地は研究室。殲滅対象はスラ シール。作戦開始だ。なんとしてもたどり 着くぞ」 リーザ「了解!」 霧江「了解」 他のサイボーグたち「おお!」            (第18話 終)
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