第19話 「犠牲」

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第19話 「犠牲」

○ 大型戦艦アスモデウス・通路 リーザ・エーデル・霧江・男サイボーグ 二人・女サイボーグ二人、走っている。 正面から銀色の針が何本も飛んでくる。 霧江「来ます」 と、走りながら背中に装着されているシ ョットガンを片手ずつで取り出す。右手 左手にショットガンを持つ形に。 霧江、軽々と撃ち、銀色の針を落として いく。 エーデル「久しぶりの実戦だが、腕は落ちて ないようだな」 霧江「当り前です。VRでの私の実績はご存 じでしょう」 エーデル「はは。そうだったな」 左右からも銀色の針が飛んでくる。 エーデル「そっちは任せたぞ」 リーザ・男サイボーグ・女サイボーグ「はい !」 エーデル、刀を一振り。全ての針を落と す。 エーデルたち、各個に落としていく。 背後からも針が飛んでくる。 男サイボーグA・女サイボーグA「ここは私 たちが!」 エーデル「死ぬなよ」 男サイボーグA・女サイボーグA「はい!」 男サイボーグA・女サイボーグA、アサ ルトライフルで針を撃ち落としていく。 リーザたち、さっきより速く走る。 正面、銀色の液体がリーザたちの進行を 防ぐように、壁を形成していく。 霧江「猪口才な」 霧江、ふたつのショットガンを合わせ、 ひとつのダブルショットガンに。銀色の 壁に向かって何回も発砲。壁に人が一人 通れるぐらいの穴が空く。 霧江「今です!」 リーザ、チーター型に変形し、一気に穴 の中を通る。 エーデル、それを見て。 エーデル「使いこなしてるな。感心感心。ど れ私も」 と、一瞬踏ん張り、一気に加速。穴を通 る。穴が少しずつ閉じていく。 霧江「私もうかうかしてられませんね」 霧江、ダブルショットガンを自分の背後 に撃ち、その反動を利用し、加速。穴を 通る。 霧江が通ったあと、穴がふさがり、銀色 の液体の壁に戻る。 残される男サイボーグB・女サイボーグ B。 エーデル「(振り返り)死ぬことだけは許さ んからな!」 男サイボーグB・女サイボーグB「(大声で) 分かりました!」 飛んでくる銀の針を、剣ではじく男サイ ボーグB・女サイボーグB。 ○ 同・研究室 入ってくるリーザたち。 リーザ「あれが……」 リーザたちの視線の先にスラシール。銀 色の液体で体が覆われた四足歩行の獣の ような姿になっている。液体は滴り落ち、 はっきりと獣の姿とは分からない。 スラシールはリーザたちを見て、虎のよ うに威嚇している。 エーデル「そう。スラシールだ。いや、だっ たかな」 霧江「原型は留めていませんね」 リーザ、大剣を構え、 リーザ「これなら戦えそうです」 エーデル、片手で制し、 エーデル「いや、私がいこう」 リーザ「でも――」 エーデル「元はと言えば私の責任だしな」 リーザ、エーデルの決意の眼差しを見て。 リーザ「了解しました」 エーデル、霧江をチラッと見て。 エーデル「援護を頼む」 霧江「分かりました」 と、持っていたダブルショットガンを左 手に。右手で右腹部の一部を取り外し、 それがMK60に変形する。 リーザ、それを見て。 リーザ(M)「銃を何丁も持てるのはそうい うカラクリだったんだ」 と、自分の体をキョロキョロと見ながら、 リーザ(M)「私にもできるかな?」 エーデル「行くぞ」 エーデル、居合の姿勢のまま、スラシー ルに突撃。 スラシールの体の一部が針状に変形し、 エーデルを貫こうとするが、エーデルは 最小限の動きでかわす。抜刀し、スラシ ールの頭に一撃! エーデル「いや」 銀色の液体がたゆみ、衝撃を和らげる。 液体が刀を飲み込もうとする。 エーデル「ちっ」 エーデル、後ろに飛び、一気にスラシー ルから離れる。 スラシール、着地を狙って、針を飛ばす。 エーデル、着地。針はすぐ目の前。 リーザ「危ない!」 エーデル、姿勢を極力低くし、難なく避 ける。そのスピードはかなり速い。 エーデル「戦闘センスも引き継いでいると」 リーザ(M)「あの姿勢からあんなに速く避 けられるなんて、どれだけ規格外なの……」 エーデル「どうした? なにかあったか?」 リーザ「いえ、なんでもないです!」 霧江「次は私がやってみます。守りは任せま した」 エーデル「ああ。こっちは気にせず、やって みろ」 霧江「言われずともそうしますが」 エーデル、リーザに近づき、リーザの前 に立つ。 エーデル「お前は私の後ろにいろ。そのほう が安全だ」 リーザ「え?」 霧江、スラシールにダブルショットガン とMK60を用い、同時に銃弾を撃ちまく る。 スラシール、銀色の体の中にすべての銃 弾を吸収していく。 霧江「なるほど」 スラシール、吸収した銃弾を体内から吐 き出す。さっきの射線上に返ってくる。 霧江、ジャンプする。 エーデル、向かってくる弾丸を剣ではじ き返す。振るう動作は高速でほとんど見 えず、キンキンという音が響く。 リーザ、エーデルの後ろで頭を抱え込み、 ジッとしゃがんでいる。 傍らに落ちる多数の銃弾を見て。 リーザ(M)「私には捌ききれないな……」 霧江、空中。 霧江「なら、これはどうでしょうか」 と、左腹部から用意されたRPGを取り 出し、発射する。 ロケット弾がスラシールに着弾。爆発。 リーザ、両耳に当たる箇所を塞いでいる。 エーデルはスラシールを凝視。爆煙で見 えない。 エーデル「(ハッと)霧江! 来るぞ!」 霧江、ショットガンを取り出している。 爆煙の中から銀色の針が、霧江の方に伸 びて来る。 霧江、ショットガンを撃ち、反動で針を 避け、エーデルのそばに着地。 霧江「(ずれた眼鏡を戻し)これぐらいは想 定済みです」 エーデル「そうか。で、この後は」 霧江「正直、ここから先は考えていませんね」 と、無傷のスラシールを見て。 霧江「傷ひとつ負っていないのは想定外です」 エーデル「私の刀もダメだったしな。万事休 すというやつか」 リーザ、おずおずと挙手し、 リーザ「あの……」 エーデル「(リーザに振り向き)どうした。 遠慮しなくていいぞ。ただ――」 針が飛んでくる。エーデル、見ずに刀で 払い落とす。 エーデル「ゆっくり聞くことはできないが」    ×   ×   × 霧江「(右耳に右手を当てながら)それは無 謀すぎませんか」 霧江、スラシールが飛ばしてくる針を避 ける。 エーデル「(右耳に右手を当てながら)私も それには同意だ」 エーデル、移動しながらスラシールが飛 ばしてくる針を刀で払い落とす。 リーザ「(少し元気のない感じで)やっぱり そうですか……」 リーザ、チータ型に変形していて。スラ シールが飛ばしてくる針を最小限の動き で左右に避ける。 リーザ「いい作戦かなぁと思ったのですが」 霧江「不安定要素が多すぎますね」 エーデル「――やって見る価値はないとは言 わないが……。挑戦してみるか?」 リーザ「え?」 エーデル「いざって時は私が守ってやる」 リーザ「はい!」 霧江「はぁ……。じゃあ、もう仕掛けますか ?」 エーデル「私はいつでもいいぞ」 リーザ「お願いします!」 リーザ、壁に向かう。 霧江、RPGを自分の背後に発射。壁に 着弾し、爆発する。 リーザ、その爆風を利用して、スラシー ルに突撃。口には大剣を咥えている。 大剣がスラシールの体内に食い込んでい くが――。 大剣の動きが液体で止められ、リーザの 動きも止まっていく。 リーザ「くっ……!」 スラシール、体の一部を液体化し、リー ザに覆いかぶさろうとする。 エーデル「リーザ!! 変形を解いて、剣を離 せ!」 リーザ、急いで変形を解き、人型に。大 剣を離す。 銀色の液体は完璧に大剣を取り込み、次 はリーザを取り込もうとしている。あと 数秒で取り込むその瞬間。 エーデルの左腕が、液体とリーザの間に 割り込む。 リーザ「え」 エーデルの左腕が液体に取り込まれてい く。 エーデル「ちっ!」 と、間髪をいれず、右手に握っていた刀 で左腕を切り落とす。 エーデル、右腕だけでリーザを軽々と抱 え、ジャンプ。霧江の傍に着地。 エーデル、リーザを降ろし、 エーデル「大丈夫か」 リーザ「わ、私は大丈夫です。で、でも司令 官の腕が……」 エーデル「気にするな。またつければいいだ けなんだから」 と、スラシールを見つめる。 スラシール、銀色の液体が徐々に膨張し ている。 エーデル「まずいな。制御しきれず、暴走し 始めている」 霧江「一度撤退した方が懸命かと」 エーデル「だな。リーザ、この場は一旦逃げ るぞ。いけるか?」 リーザ「は、はい!」 スラシールの体がさらに膨張していく。 研究室ごと埋め尽くす勢い。そのスピー ドが徐々に速くなっていく。 エーデル「撤退だ!」 リーザ達、研究室から急いで出て行く。 ○ 同・通路 走るリーザたち。リーザは変形済みで、 先頭を走っている。銀色の液体が後ろか ら迫って来る。 エーデル「(チラッと見て)想定より侵食の スピードが速いな」 霧江「分析はあとにしましょう」 リーザ「ああ!」 エーデル「どうした」 リーザ「隔壁が!」 リーザたちの進行方向の隔壁が閉まりつ つある。 霧江「防衛機構が裏目に出ましたか」 エーデル「優秀なのも困りものだな」 リーザ「(思わず)言っている場合ですか!」 霧江「いや、よく見てください」 男サイボーグBと女サイボーグBが、障 壁が閉まらないように腕と体を使って支 えている。 女サイボーグB「は、早く……」 男サイボーグB「通ってください……」 リーザたち、わずかな隙間を通り抜ける。 リーザはそのまま、エーデルと霧江はス ライディング。 エーデル「(振り返り、しっかりと見つめ) よくやったぞ、お前たち」 男サイボーグB「(支えながら、笑顔で)最 後にお役に立てて光栄です」 女サイボーグB「(支えながら、笑顔で)私 もです」 隔壁が閉まり、容赦なく潰されるサイボ ーグBたち。 エーデルと霧江、短く黙祷。 リーザ、変形したまま呆然と止まってい る。 エーデル「行くぞ。彼らの死を無駄にはする な」 リーザ「はい……」 霧江「行きましょう」 リーザたち、走る。 前方、また隔壁が閉まっていく。 男サイボーグAと女サイボーグAが、腕 と体を使って支えている。 男サイボーグA「お、遅いですよ……」 女サイボーグA「そうそう、どれだけ待たせ るんですか……」 リーザたち、わずかな隙間を通り抜ける。 エーデル「(振り返り)あとは任せておけ」 男サイボーグA「家族に――」 女サイボーグA「優秀だったと言っておいて くださいね……」 エーデル「ああ、しっかり伝えておく」 サイボーグAたち、笑顔になる。隔壁が 閉まり、潰されるふたり。 エーデルと霧江、短く黙祷。 リーザは変形を解き、二人に倣うように 短く黙祷。 エーデル「行くぞ」 霧江「作戦会議室でいいですね」 エーデル「ああ」 霧江「先に行って、準備を進めてきます」 エーデル「頼んだぞ」 霧江、急いで立ち去る。 エーデル「辛いか?」 リーザ「――辛いというか、その悔しい。そ んな感じです」 エーデル「なるほど。何もできなかった悔し さというやつか」 リーザ「はい」 エーデル「その気持ちは忘れないで、しっか り心に刻んでおけ。いつか役に立つ」 リーザ「はい……」 エーデル「さぁ、行くぞ。ここからが本番だ」 リーザ「はい!」 ○ 同・作戦会議室 リーザ・エーデル・霧江・アニードが円 卓を囲んでいる。 霧江「モニターを表示します」 と、透過キーボードをタイピング。円卓 の上にディスプレイが浮き上がる。ディ スプレイには戦艦アスモデウスの見取り 図が映し出される。 霧江、さらにタイピング。 霧江「現在の状況はこちらです」 見取り図の一部が赤色で表示される。 エーデル「この赤色が浸食されている箇所か ?」 霧江「はい」 アニード「第一隔壁で止まっておる感じかの」 霧江「そうなりますね。第二隔壁までは浸食 されていません。時間の問題かと思います が」 エーデル「だろうな。いずれあの銀色の液体 は戦艦自体を呑み込むぞ。その時は――」 アニード「わしたちの負けじゃな」 エーデル「ひいては人類の負けだ」 リーザ「そんな……」 エーデル「で、猶予は?」 霧江「いま、解析班に計算してもらっていま すが、恐らく3日間ぐらいかと」 リーザ「みっか……」 エーデル「厳しいな」 アニード「じゃのう」 リーザ「なんとかならないんですか?」 エーデル「いや、試してみたいことはある。 なあ、アニード」 アニード「なんじゃ」 エーデル「スラシールの体には未知の物質が 含まれていると言っていたな?」 アニード「ああ、あのことか。お前さん達が 戦っている間に調べておったんだが」 エーデル「何か分かったか?」 アニード「オリハルコンじゃ」 エーデル「オリハルコン?」 リーザ「それってよく昔の本に出て来るあれ ですか?」 アニード「そうじゃ。白銀、ダイヤモンド、 石英など色んな鉱物が奇跡的な割合で混ざ っておる。おかげで柔軟性と強硬性が保た れておるわけじゃな」 リーザ「本当にあったんだ……」 アニード「まあ、正確には未知の鉱物だし、 わしがつけただけじゃがな。歴史書にでて くるものと性質も似ておるし、いいじゃろ」 エーデル「全くどこでそんなものを見つけた のやら」 アニード「サァの」 リーザ「アトランティス大陸も本当にあった りした……?」 アニード「正直、否定はできんの」 リーザ「半魚人とか人魚もいたり?」 アニード「否定はできんの」 リーザ「(目が輝いて)じゃあじゃあ」 エーデル「そこまで。話が脱線しすぎだ」 リーザ「あっ……すいません」 霧江「はぁ……。で、試してみたいこととは ?」 エーデル「いや、未知の物には未知の物で対 抗してみようと思ってな」 霧江「まさか――」 エーデル「ああ。もうそろそろ着く頃だ」 女性とも男性とも言えない声「おっ待ったせ ~」 扉が開き、入って来る。マイケル・アー ムストロングだ。 マイケル、リーザを上から下までねっと りと見て。 マイケル「あらぁ。久しぶりねぇ。リーザち ゃん」 リーザ、少し身震いして。 リーザ「ご無沙汰です……」 マイケル「ちょっと聞きたいことがあるんだ けどぉ」 リーザ、ビクンと体を震わせる。 エーデル「で、あれは?」 マイケル「もう……いきなり? せかす女は 嫌われるわよ?」 エーデル「例のものは?」 マイケル「もう……部下が(扉の向こうを指 さして)持ってきているわよ。おーい!  お前たち! 入っておいで!」 がたいのいい男二人が、荷台を押しなが ら入って来る。荷台の上には大きなガラ スケースが置かれている。 マイケル、円卓をチラリと見て、 マイケル「ここに置いてもいいかしら?」 霧江「はい。それぐらい大丈夫です」 マイケル「(男二人に)ここにおいてちょう だい。慎重にね」 男二人、フン!と力を入れ、ガラスケー スを持ち上げ、円卓の上に慎重に置く。 置く時に鈍い音が響く。 ガラスケースの中には、月の光のように 白く輝く石がひとつ置かれている。 霧江「これは? 見た目の割にかなりの重さ があるようですが」 エーデル「月の石だ」            (第19話 終)
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