第20話 「リーザと吉乃」

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第20話 「リーザと吉乃」

○ 大型戦艦アスモデウス・作戦会議室 エーデル「月の石だ」 リーザ・霧江、月の石をマジマジと見て。 霧江「これが……。でもいつの間に」 エーデル「随分前から採掘自体は進めていた んだ。ただ」 霧江「加工に使えるレベルの物がなかなか見 つからなかった?」 エーデル「ああ。もちろん石自体はその辺り に転がっているが、硬度が全くなくてな」 霧江「この石の硬度はどれぐらいを」 エーデル「十だ」 霧江「(思わず)十!?」 リーザ「それってすごいんですか?」 マイケル「んふふ。硬度十ってね、ダイヤモ ンドと同じなのよ」 リーザ「すごく固いじゃないですか!」 霧江「でもそれだと加工は難しいのでは?  すぐに割れてしまうでしょう」 マイケル「それがねぇ。この石のすごいとこ ろはシリコンも多分に含まれているところ なのよねぇ」 霧江「ああ、なるほど。それは重畳ですね」 リーザ(M)「全然、会話についていけない ……」 霧江、うろたえているリーザをチラリと 見て。 エーデル「一言で言うと、加工がしやすくて、 なおかつ硬いということだ」 マイケル「まあ、ざっくり言うと、そんな感 じねぇ」 霧江「で、マイケル所長がここにいるという ことは――」 エーデル「ああ、これを素材にして武器を作 ってもらう」 霧江「誰の武器を? 総司令ですか?」 エーデル「いや、私は(切断した腕を上げて) これだしな」 霧江「私の得物は銃ですし、適していません ね。なら――」 エーデルと霧江、リーザをジーッと見て。 リーザ「えっ!? 私ですか!?」 マイケル「ちょうど武器をなくしているとこ ろだしねぇ。でも、いいのォ? 司令官さ ん」 エーデル「ああ、彼女なら十全に使えるだろ う」 マイケル「その根拠は?」 エーデル「私の勘だ」 リーザ「でも……私なんかが……」 エーデル「なんだ。お前は私の勘を信じない のか? お前よりもながーくながーく生き ているんだぞ」 霧江「私は総司令の決定に従います。そもそ もそれを使えるのはリーザ・パーシヴァル、 あなたしかいませんが。私は近接戦は得意 ではありませんので」 リーザ「それは……分かりました。でも少し だけ考える時間を頂けませんか」 エーデル「いいだろう。ただし明日中には決 めてくれ。なんせタイムリミットは三日し かないんだからな」 リーザ「(しっかりと頷き)分かりました」 マイケル「(驚き)ええ! 三日で作れって いうの!?」 エーデル「何を言っている。二日だ。今日と 明日で完成させろ。三日目の早朝には作戦 実行だからな」 マイケル「鬼! 人でなし!」 エーデル「まあ、(フッと笑い)人ではない し? そう怒るな。特別手当をやるから」 マイケル「それだけじゃ足りないわねぇ」 エーデル「なら」 マイケルの後ろに立っているがたいのい い男二人を指さして、 エーデル「彼らとのデートを許す。もちろん 休日手当もやる」 がたいのいい男二人「(同時に)エッ」 マイケル「あらぁ。話が分かる上司で良かっ たわァ」 がたいのいい男二人に振り向き、 マイケル「おい、お前らァ! 早速取りかか るぞォ! ついてこい!」 がたいのいい男二人「はい……」 マイケル「声が小さいぞ!」 がたいのいい男二人「はっ、はい!!」 マイケルが出て行く。 続いて、がたいのいい男二人が、月の石 が入ったケースを持ち上げ、荷台に慎重 かつ迅速に置き、マイケルについて出て 行く。 霧江「今のはパワハラというやつでは……」 エーデル「生きるか死ぬかという時にパワハ ラもクソもあるか?」 霧江「……ないですね」 リーザ(M)「何かの本で読んだことあるけ ど、これはブラックなんとかみたいな……」 エーデル「(笑顔で)どうした? 何か言い たいことが?」 リーザ「いえ、何もないです!」 エーデル「そうか。決心がついたら、ここ作 戦会議室まで来てくれ。イエスでもノーで もな」 リーザ「はい……」 と、トボトボと出て行く。 霧江「(リーザの背中を見ながら)彼女には 酷でしたかね」 エーデル「(リーザの背中を見ながら)なに。 あいつならやってくれるさ」 今と見た目は変わらない人間の時のリー ザ(14)の決意の眼差しのカット。 エーデル「あいつは人以外には強い」 霧江「……そうですか」 エーデル「じゃあ、少しの間ここは任せるぞ」 霧江「何か用が?」 エーデル「ああ、野暮用がな。すぐ戻る」 と、手を振り、出て行く。 アニード(M)「(エーデルの背中を見なが ら)はてさて、元老院のやつらはどう出る かのぉ」 ○ 同・元老院の間 左腕がないエーデル、片膝をついて跪い ている。スポットライトが当たっている。 エーデルを見つめる元老院のメンバーた ち6人。 ケテル「何か言い訳はあるか」 エーデル「ありません。すべては私の不手際 です」 と、胸に右手を当て、深々と頭を下げる。 ケテル「で、この不始末をどう処理する?」 エーデル、頭を上げようとする。 ケテル「そのまま話せ」 エーデル「はい。スラシール討伐にはリーザ を向かわせます」 ケテル「(少し驚き)ほう。なぜ彼女なのだ。 私情を挟んではおらぬか」 エーデル「挟んでおりません。理由はふたつ あります。まずひとつ目は現状、動けるも のが彼女しかいないからです。私はこの通 り(左腕を上げ)左腕を損傷しました。副 司令官の銃器はスラシール相手には効果が 薄い。ユーリカは精神状態が不安定。トー マとスーは別任務でここにいません」 ケテル「他の番号付きは」 エーデル「先の大戦で負傷し、大方がメンテ ナンス中です。ほぼ無傷だったのはリーザ ・パーシヴァルだけで、まともに動けるの は彼女だけです。以上のことから彼女を推 薦します」 ケテル「他の者はどう思う?」 コクナーン「私は構いませんが」 ゲブラー「俺も別にいいぜ。アイツを黙らせ るなら誰でも」 ユーニ「わたしもー!」 フィーア「この緊急事態を収めるのが最優先 かと存じます」 ケテル「マルス、お前もか?」 マルス「私も賛成です。リーザ・パーシヴァ ルを廃棄処分させないように図っているの は見え見えですが」 と、エーデルを見下ろす。冷たい眼差し。 マルス「まあ、いいんじゃないでしょうか。 ここで彼女が死ねば、それはそれで手間が 省けるでしょうし」 ケテル「リーザ・パーシヴァルが失敗した時 は、どうする? その時はお前が始末をつ けるのか」 エーデル「万が一の場合は。スペアの体があ るでしょう? そちらを使えば間に合うの では」 ケテル「ああ。そうさせてもらう。まだまだ 代わりはあるのでな。もう下がってよい」 エーデル「はっ。地球奪還のために」 元老院のメンバー「地球奪還のために」 ○ 同・リーザの部屋 リーザ、ベッドの縁に座り、頭を垂れ、 ジッと考え込んでいる。 リーザ(M)「わたしにやれるだろうか……」 スラシールと対峙し、震えていたリーザ のカット。 リーザ(M)「あの時は全くダメだった」 獣のような形態になったスラシールのカ ット。 リーザ(M)「でも今の姿なら。さっきも震 えなかったし……」 リーザ「うーん……でもなあ……」 吉乃の声「リーザさーん! いますかー!」 リーザ「(ドアの方を見て)んっ……? 吉 乃?」 吉乃の声「はい。そうでーす。今、大丈夫で すかー!」 リーザ「大丈夫だよ。ちょっと待ってて。今 開けるから」 と、立ち上がり、ドア横に設置してある 網膜認証の機械の前に。 認証が終わり、ドアが開く。 不安そうに入って来る吉乃。 チラッと部屋の中を見て、 吉乃「きれいな部屋ですねー」 リーザ「何もないだけだよ。本以外は」 と、机の上の本棚を指さす。 吉乃「本が好きなんですね」 リーザ「絵本ばかりだけど。ママがよく読ん でくれたから」 吉乃「あっ……すいません。思い出させて」 リーザ「気にしないで。10年、いやもう11年 も経ってるしね。あっ。何か飲む? と言 っても、ミネラルウォーターぐらいしかな いけど」 吉乃「じゃあ、それ頂きます」 リーザ、ベッド横にある小型の冷蔵庫か らミネラルウォーターをひとつ取り出し、 吉乃に手渡す。 吉乃「ありがとうございます」 リーザ、吉乃の横に座る。 ドキッとする吉乃。 リーザ「やっぱりテーブルとかないと不便だ ね。今度買わないと」 吉乃「そ、それなら、今度僕と……」 リーザ「んっ?」 吉乃「いや、なんでもないです……」 リーザ「変な吉乃」 と、吉乃に近づき、吉乃の顔をジーッと 見つめる。 リーザの人形のように端正な顔が吉乃の 目の前に。 吉乃の鼓動が止まらない。 リーザ「うーん。やっぱり思い出せない。吉 乃は私のことを知っているんでしょ」 吉乃「え?」 リーザ「だって、私の誕生日を知っていたし」 吉乃「それはその……カミラさんから聞いた んですよ……」 リーザ「それはそうかもしれないけど。でも 誕生日会をしようと言ったのは吉乃なんで しょ。まだ知り合ってそんなに経っていな いのに、そこまでするかなぁとふと思って さ」 吉乃(M)「こういうところだけは鋭いんだ ……」 吉乃「いやぁ、無理ないですよ。こちらがず っと見ていただけなんで――」 しまったと言うような表情になる吉乃。 リーザ「ずっと見てた……?」 吉乃「いや、ずっとは見てません! チラチ ラと見てたぐらいで……」 リーザ「チラチラと……?」 吉乃「いや、そんなことないです!」 リーザ「もしかして吉乃って……」 吉乃、バレたと思ってか、焦る表情に。 リーザ「ロリコン?」 吉乃「えっ!?」 リーザ「だって、いつから見てたか分からな いけどさ、私の方が年齢は下だよね。吉乃 って何歳なの」 吉乃「今ですか?」 リーザ「うん」 吉乃「20ですよ」 リーザ「4歳差かぁ。もし私が4歳の時から 見てたととしたら、それはなかなかだよね」 吉乃「9歳でしたからセーフですよ。あっ… …」 リーザ「その頃から見てたんだ……どうして ?」 吉乃「それはその……」 リーザ「ん?」 吉乃「あ……あなたのことが――す、す」 リーザ「す?」 吉乃「す――」 クロエの大声「あれー!? みんなもいるー!!  考えることは同じだねー!」 吉乃、ビクッと体を震わせる。 リーザ「クロエ? みんな? まさか」 と、網膜認証の機械の前に行き、ドアを 開ける。 最初にカミラが前のめりに倒れる。その 後ろからイレーネが顔を出し、またその 後ろからはサラとエマが顔を出す。最後 にクロエが顔を出し、 クロエ「やっほー! リーザ!」 カミラ「(気まずそうに)アハハ……」 リーザ「みんな……。クロエ以外は何してた の」 カミラ「いや、その……ねえ」 イレーネ「私は止めましたが」 サラ「と言いながら、君も聞いていたよね。 まあ僕もだけど」 エマ「その……ごめんなさい」 リーザ「言い出しっぺは誰なの」 イレーネ・サラがカミラを指さす。申し 訳なさそうにエマも指さす。 カミラ「はは……」 と乾いた笑い。 リーザ「はぁ……。別にいいけど。なんで盗 み聞きみたいな真似を?」 カミラ「それは」 と、吉乃をチラッと見る。 吉乃、ブンブンと左右に首を振る。 カミラ「寝てたら悪いかなぁと思って」 リーザ「なにそれ。気にせず入って来ればい いのに。いつもそうなんだし」 カミラ「いやぁ、なんか重要な作戦前って言 うのも聞いたから。ハハハ」 リーザ「まあ、そうだけど……。みんな、体 は大丈夫なの?」 イレーネ「万全ではないですが、十分動けま すよ」 サラ「君だけに任せるのも悪いと思ってね」 エマ、コクコクと頷く。 カミラ「どういう作戦かはまだ聞いていない んだけどね。前座ぐらいは任せられても大 丈夫かなと」 クロエ「私はほとんど破損してないし、バリ バリいけるよー!」 リーザ「そう……。良かった」 カミラ「あんたはどうなのよ? 重要な役を 引き受けるんでしょ。大丈夫なの」 リーザ「さっきまでは少し悩んでいたけど」 と、吉乃をチラッと見て。 リーザ「吉乃と話してたら、楽しくて悩んで いたことなんか忘れたよ。ありがとうね、 吉乃」 と、笑顔に。 吉乃、その笑顔に見とれ、言葉が出て来 ない。 リーザ「吉乃? どうしたの?」 吉乃「――ああ、いやその……そんな大層な ことは――」 と、視線を感じて、カミラの方を見る。 ニヤニヤと笑っているカミラ。 吉乃「カミラさん!」 リーザ「カミラがどうかしたの?」 吉乃「いや、なんでもありません……」 リーザ「変な吉乃」 吉乃「リーザさん」 リーザ「なに?」 吉乃「無事に帰ってきてくださいね。待って ますから」 リーザ「うん。決着をつけてくるよ」 ○ 同・作戦会議室 リーザたち一同(吉乃以外)が、エーデ ル・霧江と向かい合っている。 エーデル「大所帯だな」 カミラ「私たちもスラシール討伐作戦に参加 させて下さい」 と、頭を下げる。リーザ以外の仲間たち も頭を下げる。 リーザ「私からもお願いします」 と、リーザも頭を下げる。 エーデル「怜」 と、霧江に視線を向ける。 霧江「一応、アニード様とテレサに確認を致 しましたが、許可は出したようです。十全 ではないようですが」 エーデル「ハァ……。先に言っておくが、足 手まといになるようなら置いていくからな。 お前たちを庇いながら、闘う余裕はない」 イレーネ「(頭を上げながら)ということは ――」 エーデル「参加を認めてやる」 クロエ「やったー!」 サラとエマ、向かい合ってうなずき合う。 エーデル「で、コイツたちと一緒にいるとい うことは――」 と、リーザを見つめ。 リーザ、エーデルの目を見つめ、しっか りとうなずく。 エーデル「そうか。感謝する」 と、一礼。 霧江「私からも感謝いたします」 と、一礼。 リーザ、慌て、 リーザ「ふ、ふたりとも頭を上げてください。 ロボットを倒すのは私たちの使命なんです から」 エーデル、頭を上げ、 エーデル「だが、今回の作戦はかなりの危険 を伴う。正直、命の保証はできない。それ でも――」 リーザ「引き受けます。スラシールを、彼を 止めます。いや、破壊します」 リーザの決意の眼差し。 エーデル、その目を見て。 エーデル(M)「強くなったな」 エーデル「分かった。リーザ・パーシヴァル、 君にスラシール討伐作戦の最後の要、スラ シールの破壊を命ずる」 リーザ、敬礼し、 リーザ「はい!」 エーデル「リーザ以外の者は、これから作戦 会議を始める。リーザ、お前はもう少し休 んでおけ。武器自体が完成しないとどうに もならないからな」 ○ 同・武器開発室 部下たちに間髪入れず、大声で指示を出 しているマイケル。額には汗がにじんで いる。 ○ 同・研究室につながる通路 銀色の液体が侵食し、通路全体を覆い尽 くそうとしている。 ○ 同・作戦会議室 T「二日後・早朝」 エーデル・霧江が、カミラ・クロエ・サ ラ・エマ・イレーネ・三人の女性サイボ ーグ・二人の男性サイボーグと向かい合 っている。 エーデル「作戦はシンプルだ」 霧江、慣れた手つきで透過キーボードを タイピングし、艦内のホログラムを表示 させる。 エーデル、研究室の中心に表示されてい る赤い点ををビシッと指さし、 エーデル「スラシール本体はこれだ。だが、 私たちの任務は奴を倒すことじゃない。霧 江、浸食度を表示してくれ」 霧江、タイピング。 研究室やそこにつながる通路などが赤く 表示される。 カミラたち、息を呑む。 エーデル「見たとおり、研究室回りはやつの テリトリーと言ってもいい。ここは手のつ けようがない。問題はここだ」 と、研究室につながる通路を指さす。そ こは赤く表示されているところと普通に 表示されているところの境目。 エーデル「ここまでは浸食されているが、な んとか隔壁で止めている状態だ」 イレーネが挙手。 エーデル「許可する」 イレーネ「そこは第二の隔壁ですよね。第一 の隔壁は突破されたのですか?」 エーデル「ああ。隔壁ごと浸食されてな」 ざわめくカミラたち。 エーデル「これが最後の隔壁だ。このままで はいずれここも突破されるだろう。もし突 破されれば――」 と、指をスーッと動かし、居住区と書か れた箇所をさす。 エーデル「ゲームオーバーと言っていいだろ う」 カミラ、挙手。 うなずくエーデル。 カミラ、周りを見て、 カミラ「この人数で作戦を?」 エーデル「ああ、そうだ。確かに少ないが、 満足に動けるのがこれだけだ」 イレーネ「(食い気味に)ユーリっ(詰まり) ユリア・レオニート・ヤコブレフは参加し ないのですか」 エーデル「彼女は体は問題ないんだが、精神 的にまいっていてな。今回は見送らせても らった」 イレーネ「そうですか……」 カミラ、イレーネを訝しげに見て。エー デルを見直し、 カミラ「リーザはあとから合流ですね」 エーデル「ああ。リーザ・パーシヴァルは武 器が完成次第、こちらに来る予定だ。霧江」 霧江「はい。マイケル・アームストロング室 長によると、完成はもう間近と」 エーデル「だそうだ。彼女の武器が完成する まで、私たちでスラシールの浸食をなるべ く止める。やることはそれだけだ」 力強くうなずくカミラたち。 エーデル「だが、毎回言うが、今回も言って おくぞ。死ぬな。生き残るぞ。これが一番 で、絶対だ」 カミラたち「はい!」 エーデル「いい返事だ! 行くぞ!」 カミラたち・霧江「はい!」 ○ 同・武器開発室 そわそわしているリーザ。 慌ただしく行ったり来たりしているマイ ケルの部下たち。 マイケル「オラ! 急げよ、てめえら! 人 類の命がかかってるんだからなァ!!」 リーザ(M)「出る幕がないっていうのはこ ういう時に使うんだね……」            (第20話 終)
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