6章

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 無心に自分を求めてくる男の舌から逃れようと顔を逸らすのだが、吟次はなおも追っては強引に舌を絡めとられてしまう。 「…く…しい……」  馨は逞しい吟次の胸を押し返し、大きく息を吸う。 「……逃げんなよ…」  吟次が切なげに眉を寄せた。 「俺からもう逃げるな」  苦しげに歪む目が言葉に出来ない想いを伝えてくる。  どこか怖々とした表情に、馨はふっと笑みを浮かべ、吟次の頬を両手で挟む。 「もう逃げませんから」  不器用な程がむしゃらに与えられる愛情に味を占めてしまいそうなのは自分の方なのに。  何とか気持ちを証明したくて。  馨は年上という余裕も恥じらいも捨てて吟次の目下、自ら帯を紐解いてゆく。  観客の去った歌舞伎座で馨は誰かに見られるかも知れないという危険を顧みずに帯を解いて、袂を崩す。吟次はただ黙って馨の大胆さに息を飲む。  白い肌襦袢が解かれ、そこから素肌が晒されると吟次が黙ったまま唇を寄せた。なめらかな鎖骨から胸へ、脇腹を辿り、下腹部へ舌が這う。 「ま、待って……っ」  舌が馨の臍をくすぐって、身をよじった。 「あなたも…お召し物を…」  馨は慌てて身を起こして吟次の着物へ手を伸ばす。自分だけ裸なのは気恥ずかしい。  吟次の帯を解き、友禅の着物を袖から抜く。そしてシャツの釦を一つ一つ外した。 「おい…っ」  脱がされて裸身になった吟次は慌てる。  服を脱がし終わった馨は躊躇せずに自分の胸に唇を寄せてきたのだ。馨の柔らかい唇が突起を挟む。  吟次の息が震えた。
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