1人が本棚に入れています
本棚に追加
モレラ歴十一年、二十一月の六日。食事はいつも通り食べる。体調も良好。そしていつも通り、マルベリーは向かいに座る。陣地を取り合うゲームをした。三百二十七回中、百五十六回マルベリーが勝った。王様を取り合うゲームをした。二百六十八回中、百七回マルベリーが勝った。
「ボードゲームはもう、やり尽くしたし、飽きちゃったね」
「飽きる、という感覚が僕にはまだわからない」
僕、という言葉に、マルベリーは顔を上げる。
「どうしたの?」
マルベリーは笑っている。
「僕って一人称、何回聞いてもいいよね。男の子と話してるって気持ちになる」
言いながら、僕の「口」の横を指先で撫でる。人間でいう、頬の場所。マルベリーは機嫌が良いときによくこの場所を撫でる。自分も腕を稼働させて、マルベリーの頬に触れる。マルベリーは皮膚だけれど、僕の顔と腕はゴムで出来ていて、何度も撫でていると汚れてくる。だから毎月七日は拭いてもらえる日。明日である。明日マルベリーに頬と腕を拭いてもらえる、と思うと記録装置全体の温度が少し上がる。これは多分、人間でいう「うれしい」の気持ちなのだと解釈している。僕、と自分のことを示す時も、頬を撫でられているときも、拭いてもらっているときも、「カイ」と呼びかけてくれる時も、マルベリーは笑顔になる。マルベリーが笑顔になると「うれしい」という反応が出る。
最初のコメントを投稿しよう!