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マルベリー以外の笑顔は、写真や映像で見たことがある。と言っても、再生機能はついていない。他の機械から出した資料を、マルベリーに見せてもらった記録がある。どれを見ても「笑顔」と判断するだけで「うれしい」反応は出なかった。他の笑顔はただの「笑顔」だ。マルベリーの笑顔だけが特別。
「カイと一緒にいると楽しいから、自分の目的を忘れちゃいそう」
「目的はマルベリーの最優先事項。僕より大切なこと」
「はいはい。もう、カタいんだよなぁ」
マルベリーはタブレット端末を取り出す。プログラミングから始めてて、形になってからも改良を重ね続けている探索機械。タップすると航路が映し出される。船の周囲にはいくつかの惑星。だがどれも、有害なガスに覆われていて着陸は出来ない。この銀河も素通りしなければならない。
「『学習を終えれば君たちは』」
かつて使っていた学習用機械から流れた音声を、マルベリーは復唱する。
「『開拓団の立派な一員となる。胸を張って進み続けるのだ』」
学習用機械から流れていた音声は、低い男性の声だった。大きな声を張り上げて、抑揚を付けた話し方をしていた。一方マルベリーは、淡々と声に出しているだけである。
「『探せ。資源ある星を。切り拓け。人類の未来を。君たちの知識と技術は、人類の財産だ。新たな星に根を張り、人々を呼び集めること。それが、君たちに科せられた大いなる任務である』」
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