3.禁じられたキャンバス

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3.禁じられたキャンバス

両親が血塗れで死んだ時から現在、私は養子として太田家の娘として生きている。里子になった年齢が早かったから、不貞腐れることなく、実の娘として気兼ね無く振舞っている。和裁士の両親は、将来私にその仕事を継いでもらいたいと思っている。私は中学までは絵描きになりたいとぼんやり考えていたけど、彼らの私の人生のビジョンを知って、その夢は弾けた。でもしょうがない、太田家は娘を美大に通わせれる程金持ちではないのだ。 違う、私の夢がただ儚かっただけなのだ。自分が描きたい愛しいものたちを、愛せなくなったからだ。そして倫理の授業を思い出す、マズローの欲求五段階説。自己実現の例がちょうど絵描きで、本人は楽しく絵を描いてても、その絵が売れるというイラストが一緒だった。その中の絵描きの顔を見ると、絵を描くことを馬鹿にしてるのかと吐き捨ててしまう。私はこんな間抜け面で絵を描けない。楽しくないわけではない、私はモデルの感情をそっくりそのまま描きたいのだ。モデルはほぼ無生物だったが。     
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