5.書道室

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5.書道室

征一は12月から受験生になるため、最後の秋の書道大会に向けて葛藤している。彼が出るのは、有名なグループ部門ではなく、個人パフォーマンス部門だ。事前に知らされるお題に対して、大きな正方形の半紙に伝えたい言葉を書くという、10年前に始まった新しいものだ。勿論征一の腕前からグループ部門も出れるのだが、部内からは難しい個人部門に出てほしいと頼まれているのだ。 第一回目の個人部門で優勝した彼は、マスコミに騒がれていた時期もあり、書道界では有名だった。中学生になった頃、一つ年下の中谷芳子に優勝を盗られるまでは。中谷は「貧乏」で「虐められていた」けれど、「逆境に耐え」、優勝したとあって、マスコミの注目は征一の時よりも熱狂的になった。たかが書道界のニュースだったのが、彼女の付加価値によって、何か大会がある事にテレビで取り扱われるようになったのだ。その後、征一が取り上げられる事は無いに等しかった。最初、ネットでは中谷と引き合いに出されたが、征一の父は有名な棋士であり、かつ裕福だということもあって、添え物となって中谷の株が上がっただけだった。 「別に構わへんわ」     
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