5.書道室

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「太田さ、『蟲師』って漫画読んだことある?」 征一は雰囲気を明るくするために、自分の内で循環している想像の欠片を千代子に伝えようとした。相槌は返ってこないが。 「その話でさ、体の一部が墨色になって生まれてくる人がいるねん。 その人って、何て言ったらええかな、字を書く時、指先から字を生むように書くねんけどさ」 設定、こんな感じやっけ?征一はそれよりも、部活用の自分の格好を千代子に見られた事を気にし始めた。黒いTシャツから、自分の肉体が貧相なのがばれていると思うと隠したくなる。 「・・・それで、俺も漫画みたいに墨が血になるくらい、書を書けたらいいなと思うんだよね」 もしかしたら、漫画は血じゃなかったかもしれないな。帰ったら漫画読み返さな。 すると千代子が、首に墨が付いているとやっと口を開いた。征一は、どこら辺が汚れているか教えてほしいと首を差し出した。千代子のあの丸い目が、自分の肌を見透かしている事に気付いた。 「あなたは、自分の血の色が墨色なら良いと思うの?」 「まぁ、想像、あ、例えやけどそうやな」 「本当に?」 「え?」 「本当に墨色だと思うの?」 次の瞬間、千代子は彫刻刀で征一の首筋を切りつけた。
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