1.初めての色

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今でもその映像は覚えている。薄暗いアパートの玄関だった。目の前には私の父らしき外人。その人は全身に返り血を浴び、私にナイフを向けていた。私の母らしき人は、私を守ろうと抱きしめていた。四歳の私は怖いなんて思わなかった。父の白い頬に付着した血液の赤さに見とれていたからだ。そんな美しい人に殺されるのが、その時の本望だったのか。 けれども父は、私の顔を見て呆然としていた。きっとあの時に気付いてしまったのだ、殺そうとした女はかつての恋人の一人で(これは勝手な推測だが)、私という子供が存在するなんて知らなかったのだ。父はその後ナイフを下ろし、ピストルに持ち替えてから、英語で母に愛してたとかほざいて自殺した(だから母は、父の昔の恋人だったと思うのだ)。母も母で、私を突き飛ばしてから、私もよなんて言って仲良くピストルを鳴らした。 その時の血の海の映像からは、無音で再生される。だって、私は四歳で、満足に幼稚園にも通えてなかったのだ。クレヨンも常識も持ってなかった女の子にとって、両親二人の血液は目に毒だった。なんてはっきりしたいろなの!あたし、このいろだいすき。触ろうとしたけど、そうしただけで赤色が褪せる気がしてやめた。もしそれを指に付けてお絵描きなんてしたら、後の里親募集が面倒になっただろう。 「そうか、私、赤色って言葉を知らなかったんだ」 「いきなりどうしたん」 隣を歩いていた小柴が不思議そうに返事をした。 小柴は私の恋人だ。今日はセンター試験が終わって、久しぶりに学校に来た彼と一緒に帰っている途中だった。     
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