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6.明瞭な衝動
私が切りつけた跡から、少しだけ血飛沫が上がったような気がする。
小柴は最初呆然としていたが、すぐに首を右手で押さえた。彼の赤い血が、書きかけの半紙にポタポタと滴っている。
「な・・・何で」
「・・・墨色じゃなかったでしょ」
「は?」
「綺麗な赤色だったでしょ」
私はまだ半紙に染みてない血を指でつついた。
「面談で、進路の事を言われたの。
美大に行きたかったけど、コンクールで賞を取ったくらいじゃ、将来を変えられないのよ。
親に一回言ってみたけど、すぐ和裁士になってほしいって頼まれた。先生にも不思議な顔された。
こうやって出来ないことばかり増えていくの」
私は意味を知らない書の言葉(海誓山盟と書いてある)を見続ける。
「私の中の、絵に対する情熱が小さいって事は分かってる。そしたらふと、小柴が過去に甘んじたところを見たことが無いと気付いたの。あんなに書道で有名だったのに、スランプに陥っても自分を否定しないところ。
否定すれば何も考えないで済むのよ。なのに」
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