6.明瞭な衝動

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やっと小柴の顔を見ると、言葉を続けられなくなった。目の手前にある正しさを帯びた透明なレンズは、彩色を受け付けず、墨と半紙の濃度だけを見れれば良いという彼の気高さを表していた。そして私の内の、彼に対する苛立ちが、透明な眼鏡の前で、許しを請わなければならない気持ちに塗り替えられていく。 小柴は無表情で私の名を呼び、「続けて」と呟いた。 「太田が言いたい事、俺に対する当てつけだけじゃないやろ。切りつけた時、怒ってなかったから」 何故、彼はこんなにも私の事を見抜いているのだろう。 「・・・鬱陶しい、羨ましいと思ってると、不満から赤色を見たいと思ったんだけど、今日面談で、今から美術部に行ったのは良いけど、絵を描くには気が乗らなくて。 ねぇ、体って、色で構成されてると思わない?私、絵の具の純粋な色よりも、体が関わる色の方が美しいと思ってる。だから、誰かの血を見たかったの」 「それで、俺が?」 「小柴って、白と黒しか受け付けてない人間だと思ってたから。書道のイメージが強いからかな」 そりゃどうもと言ってから、彼は小さく痛っと本音を漏らした。ごめんなさいと謝ろうとしたら止められた。 「欲の矛先が俺で良かった。他のやつなら太田、一発で推薦取り消し」 「・・・先生に言った方が良いと思う」 「太田がそれ言う? あー結構彫刻刀って痛いな。どうやって保健の先生騙そう」 「・・・話を逸らさないで。何で言わないの?」     
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