8.高貴な隠れ処

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綾美ちゃんは私に構わず、セーラー服を脱ぎ始めた。ちょっとは女子として躊躇してほしいが、冬の天文ドームは寒いので、早く下書きを済ませなければ風邪を引かしてしまう。初めて彼女の裸を見たけど、何となく小柴に似ていると思う。水島は彼の父に似たのか肌は白くても筋肉質だったから、さらに白い肌やほっそりとした背中が。 すぐに真っ白なキャンバスに鉛筆を走らせ出す。細くて薄い線が、華奢な綾美ちゃんの脚を形作る。軽やかなシャッシャッという音がドームに響く。彼女の足元にはビー玉がギリギリ日光に当たって煌めき、ボロボロのトランプの箱は影の中で柔らかな色合いを醸し出す。この光景を絵の中に閉じ込められるなんて、最高だ。 「うぅ、寒い」 「綾美ちゃん、すぐ終わらせるから」 「分かった、終わったら温かいもの食べに行こう」 「勿論、奢る。あと動けないけど、全然喋っていいよ」 「・・・何か質問してくれたら」 「なら、何故絵を飾りたいの?」 どんな理由でも良いから尋ねてみたかった。その理由を訊けたら、赤色に魅入られて人を殺すような目で絵を描いていた事から、心置き無く卒業出来る気がしたのだ。 私もあの殺人鬼の父親と同じなのかもしれない。記憶の中で彼は血の付いたナイフを興奮して眺めていた。私はその美しい顔に似なかったが、三つだけ彼から受け継いだものがある。一つは丸い黒い目、二つ目は外国人特有の(小柴兄妹の日本人特有ではない)肌の白さ。最後に赤色の魅力。彼は私にそれを教えてくれた、自らと愛する女の血を使って。     
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