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とはいえ長年やっていればそれなりの経験を積んで、一応は書き方のコツが分かってきた自覚も高遠には芽生えてくる。いつの頃からか加納の力に頼る必要もなく、自然と仕事が入るようになった。実際、途中からは加納は高遠の仕事に手回ししておらず、高遠は自分自身の実力で仕事を得ていた。それは高遠も意識的に分かってきていた。
取引先の面持ちが硬く重い、と見えると高遠は、業界の大物の加納による頼み事を前提の仕事のオファーだな、と忖度していた。だが、相手の態度が妙にフランクだと、加納の圧がかかっていない、真っ新な状態での仕事の注文だ、と高遠は判断するようになった。そして、そんな屈託のないオーダー対応が多くなって、ようやっと俺もパトロン加納から脱却できるようになったか、と苦笑いして高遠は自負するようになった。無論、恩義の念は薄いとはいえ、加納が仕事の便宜をはかってくれていた事には高遠は感謝している。迷惑などまったくない。ただ、小説家として独り立ちしたかった願望を過去に多少なりとも持っていた高遠にとっては、やはり無頼の物書きにはなりたいという自尊心はあった。放送作家という立ち位置の違いはあれど。
〈まあ、放送作家としての才能があったなんてとても思わないが、小説家よりは物書きとしての性分が合っていたのだろう、偶然にも〉
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