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そう言うと、彼らは少し驚いた様子で顔を見合わせた。男は一拍置いて、ハッハと笑いを爆発させたが、女性は困った顔で口を開いた。
「記憶がないのか、これは心配だね」
「何が心配なものか。こいつの仕事は何もしないことだろう。少しばかり頭がイカれたところで、何の問題があるものかよ。全く皮肉な、いやむしろ傑作だと言いたいね」
からかう様子で男が言う。
「そういうことを言うものではないよ」
「だが、こいつは絶対に思い出しはしないだろうよ。何せここがどこかも分かっちゃいないんだからな。こうなったからには、俺とお前のどちらが優位か決める方がいくらか建設的だと思うがね。こいつに説明したところで何一つ分かりはしないんだからな」
「まあ言い方は良くないけれど、その点については同意かな」
女性は、ハアとため息を吐くと、ゆっくり椅子にもたれかかった。
二人の会話が途切れたところで口を開く。喉がカラカラで声が出ない。紅茶を一息に飲み干した。白の地に、グラジオラスの花が目についた。
「僕の記憶がないって、一体どういうことですか」
「そのまんまの意味だ」
足元からゲームの箱を取り上げながら喰い気味に男が答える。こちらの質問を予測していたようだった。
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