無貌

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「ここがどこか、分からないんだろ? 記憶をしっかり辿ってみろ。お前自身について何か覚えてることでもあるってのか?」  そう言われて気がつく。知識はあるにも関わらず、自分のことはすっかり頭から消えていた。いや、と首を振る。 「ほうらみろ、分かったら余計な質問をするんじゃねえよ」  男は満足げに笑い、箱から盤を取り出した。 「リバーシかい」 「分かりやすくていいだろう? お前は白で、俺は黒。今までずっとそうだった。まさしく白黒つけるというわけだ」  男が大げさに肩をすくめる。この男は常にどこか芝居がかった調子があった。 「持ち時間は?」 「無制限。俺たちは今、最も重要な分かれ道にいるからな。それに時間はたっぷりある。時計がなけりゃ茶会は終わらないものだろう?」 「確かにこのお茶会は狂っているだろうけどね」  女性は顔をしかめると、本をバスケットにしまい込み、新たに一冊をわきへ置く。そして、思い出したようにこちらを見ると、ばつが悪そうに首を傾げた。 「ああ、記憶を取り戻すことはできないけれど、さっきまで何の話をしていたのかぐらいは話してあげてもいいかもね。勝負がつくまで長そうだ。ただし、質問はしないこと。私たちでは君に分かるような答えは用意できない。すまないけれどね」     
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